冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
『大物政治家 詐欺企業との癒着』
そんなスクープが、新聞の一面、テレビやネットニュースを賑わせたのは、それから間もなくのことだった。
玲は驚かなかった。そして、隣で苦虫を噛み潰したような顔をしている父も。
この日この情報が出ることを、二人は事前に知らされていたからだ。
さらに、これで終わりではない。
玲たちは、巻き込まれることを逃れただけの傍観者ではないのだ。
『大手一宮グループは、告発した従業員を含め、雇用の保護を行うと発表』
『第三者機関の審査も受けた上で、正しい企業の運営に協力する との社長発言』
その言葉が流れた瞬間、父は頭を抱えて俯いた。
「こんな、恩を仇で返すような真似を……!」
マスコミにこの発表をする許可を出したのは父自身だ。だが本当のところを言えば、父がやりたくてやったわけではない。
「あの男、人を脅しおって……!」
促したのは、彼――伊神だった。
彼は父に対して、『彼らと訣別すると、分かる方法で示してください』と迫った。いや、実際は、『そうしなければあなたも道連れになりますよ』と脅した。
だが。
玲がスマホで確認している情報では、株価はうなぎ登りだ。
それだけではなく――。
『一宮グループ、この早さはすごいな。どうやったんだ』
『判断が早いのは評価できる』
『大手グループがこの動きをしてくれる日本は捨てたもんじゃない』
『政治家も見習え』
これを全て真に受けるわけではないが、そんなSNSの言葉は、初動の反応としては悪くない。
取る手を間違えれば、一宮グループは今頃、裁かれる側にいただろう。
だがいくら得たものが多くても、父は本当に悔しそうだ。
玲はそんな父を横目で見て苦笑した。
俯いたまま、父は言う。
「お前、……本当にあの男と結婚する気なのか……」
その声は弱々しい。
それをほんの少し気の毒に思い、でも、その場限りでも嘘はつけなかった。
「彼が好きなの」
あんな裏のある人間と、しかも父を脅すような人間を好きだと思う自分は変わっているのかもしれない、と玲は思う。
だけど。
「趣味の悪いことだ……」
それでも。
玲にこんな血の沸き立つ景色を見せてくれるのは、彼だけなのだ。