冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
第六章 止まらない溺愛

 自らを取り巻いていた危険な問題は、解決した。
 だが、玲には今、困っていることがある。

「玲、好きだよ」
「……っ」

 甲斐甲斐しく頻繁に会いに来てくれるところは変わらないが、この人は、同じ人なのだろうか?
 伊神はまるで何かのブレーキが壊れてしまったかのように、こんなふうに簡単に甘い言葉を吐くようになったのだ。

「亮介、さん、あの……」

 名前を呼ぶように言われたのも先日のことだ。まだ慣れない。
 ん? とにっこり笑って首を傾げる男の顔には、反省の色はない。
 海外生活の長さによるものだろうかとも思うが、今までここまでの素振りを見せてこなかったのを思えば、やはりあの件が解決したのが大きいのだろうか。

(本当に、私のことが好きなの……?)

 その気持ちが顔に出ていたのだろう。
 伊神は微笑み、玲の額にキスをした。

「まだ不安にさせてる?」
「……いえ」
「……はじめは、都合のいいお見合い相手だと思ったよ」

 伊神のその言葉を聞くと、またずきん、と胸が痛む。

「でも、君が、自分にも幻滅してると言った時、逃がしてはいけない人だと思った」

 そう言って微笑む。

「君は、唯一無二の人だ」

 まっすぐな愛の言葉に、玲は彼の目を見ていられなくなって俯いた。
 こういう時には、これだけでは終わらない。
 彼の目には最近、時折鋭さが混じって、それに触発された玲の身体も熱をもつから、困ってしまう。

――まだ、キスだけ。

 二人が交わしたのはあの夜のキスだけで、それ以降はプラトニックな関係のままだ。

 でも。
 思い出すだけで身体が熱くなる。
 二人の生活まで、もう少し。
 二人きりになれば、あれ以上のことをされるのだ。

「……玲」

 そんなことを考えていると、彼の掠れた声が落ちてきた。

「やらしいこと、考えてる?」
「……っ」

 息をのんだ玲の様子で確信を持ったのか、伊神が額に手を置き、自分を落ち着けるように息を吐く。
 そして、玲の耳元に唇を寄せた。

「結婚したら、朝も夜も関係なく、抱くから」
「や……っ」

 玲の背中をぞくぞくとしたものが這い、何もされていないのに甘い声が出てしまった。
 伊神が呻く。

「……君は困った人だな」
「それは、こっちのセリフです……」

 苦しげに笑う彼が切ないくらい好きで、愛おしい。
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