冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~


 そんな伊神も、今日は少し、緊張しているように見えた。

「申し訳ありませんでした」

 結愛に向かって頭を下げる声色と仕草には、間違いなく誠意を感じる。

「いいですよ」

 結愛はそう言って微笑んだ。

「今日はそのことじゃなく、玲の婚約者として会いたかったのに」

 結愛はそう言ってむくれてみせるが、きっとこちらの気持ちを軽くするためにそうしてくれているのだろう。

「……私は、許すことはできないけど」
「ちょっと、玲」

 結愛が慌てたように言ったが、伊神は分かっている、というように眉を下げた。

「結愛さん。彼女には以前伝えたが、おそらく俺は、もう一度同じ立場に立っても、同じことをする。彼女にそう言われるのも無理はない。君が許す必要もない」

 結愛はぱちりと目を瞬かせた。
 驚いたりショックを浮ける様子はなかった。
 むしろ、嬉しそうに目を細める。

「こういうところがいいのかなぁ」
「結愛!」

 頬を染めて慌てる玲に、結愛はにやりと笑う。

「違うよ。伊神さんが、玲のこういうところがいいのかなって思ったの」
「そうだね」

 伊神が甘さの増した笑顔をこちらに向けてくる。

「こんな人は、ほかにはいない」
「亮介!」

 二人がかりでからかわれているようだ。
 顔を真っ赤にする玲の前で、結愛が眉を下げた。

「もう結婚に希望なんて持てないかなと思ってたけど、二人を見ると、……いいって思っちゃうな」

 玲は黙って頷いた。

 そうだよとか、早く次の人を、なんて簡単には言えない。
 それは全て結愛が選ぶことだ。
 だが、彼女に幸せになって欲しいと、玲は心から思う。

「何かあったら、ぜひ相談してください」
「そんなことないほうがいいけどね」

 二人の掛け合いを見て、結愛はまた楽しそうに笑ったのだった。
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