冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
『玲ちゃん、彼、女の人がいるみたいなの』
月島 結愛は、幼稚舎の頃から一緒に育った、玲の大切な幼馴染だ。
玲は、優しくて純粋な彼女の幸せを誰よりも願っていた。
そんな彼女が見ていられないほど痩せて、あれほど苦しんでいた姿を、そう簡単に忘れられはしない。
彼女が結婚した相手は、有名政治家の一人息子。
だが、結婚した矢先、彼に裏切られていることが判明したのだ。
『今時、愛人の一人や二人くらい』
そんなことが許されるわけがない。
『慰謝料? 今後うちからの支援がなくなって困るのはそちらでは?』
『示談に応じているだけで感謝してもらいたい』
玲は話し合いの場に入ることはできなかったが、結愛から聞いた話では、大の大人が数人がかりで彼女を取り囲み、そう言って責め立てたのだという。
『玲ちゃん、私もう、頑張れない……』
そんな彼女に、負けないで、なんて言えなかった。
自分たちは、家同士の序列の前で、簡単に道具にされ、蔑ろにされる。
そしてそんな力関係の前で、大の大人が何人も自分の利権を優先し、忖度をする。
その全てに幻滅をした玲が、父の持ってきた見合い話に前向きになんてなれるはずがない。
「こんなに反抗的になったのは、大学に行かせて、仕事なんかさせたせいだ」
そう母に言う父の姿も、もう何度目にしただろう。
(分かり合えない……)
玲はやるせなさに下唇を噛んだ。