冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~

『玲ちゃん、彼、女の人がいるみたいなの』

 月島(つきしま) 結愛は、幼稚舎の頃から一緒に育った、玲の大切な幼馴染だ。
 玲は、優しくて純粋な彼女の幸せを誰よりも願っていた。
 そんな彼女が見ていられないほど痩せて、あれほど苦しんでいた姿を、そう簡単に忘れられはしない。

 彼女が結婚した相手は、有名政治家の一人息子。
 だが、結婚した矢先、彼に裏切られていることが判明したのだ。

『今時、愛人の一人や二人くらい』

 そんなことが許されるわけがない。

『慰謝料? 今後うちからの支援がなくなって困るのはそちらでは?』
『示談に応じているだけで感謝してもらいたい』

 玲は話し合いの場に入ることはできなかったが、結愛から聞いた話では、大の大人が数人がかりで彼女を取り囲み、そう言って責め立てたのだという。

『玲ちゃん、私もう、頑張れない……』

 そんな彼女に、負けないで、なんて言えなかった。

 自分たちは、家同士の序列の前で、簡単に道具にされ、蔑ろにされる。
 そしてそんな力関係の前で、大の大人が何人も自分の利権を優先し、忖度をする。
 その全てに幻滅をした玲が、父の持ってきた見合い話に前向きになんてなれるはずがない。

「こんなに反抗的になったのは、大学に行かせて、仕事なんかさせたせいだ」

 そう母に言う父の姿も、もう何度目にしただろう。

(分かり合えない……)

 玲はやるせなさに下唇を噛んだ。
< 4 / 37 >

この作品をシェア

pagetop