冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
「おお、玲、遅かったな! 伊神くんもお待ちだぞ!」
「伊、神……」
目を丸くして硬直する玲に、母が眉を寄せた。
「玲……? どうしたの?」
その視線の先を見て、首を傾げる。
「伊神さんをご存知なの……?」
(知ってるも何も……!)
そこに座っていたのは、黒髪に色気のある笑みを浮かべた、端麗な男だった。
そして彼のほうも玲を見て一瞬目を丸くし、ふわりと微笑む。
「ご無沙汰しております」
忘れるわけがない。
――弁護士、伊神 亮介。
「月島さんの件では、お世話になりました」
(私のこと、覚えてるの……?)
玲は衝撃で、とりあえず会釈をすることしかできなかった。
「結愛さんって……まさか……」
母は一瞬まずい、という表情を浮かべ、父の顔をちらりと見た。状況を察したようだ。
そう、この男は、絶対に玲のお見合い相手として連れて来るべき相手ではない。
この男は、玲の幼馴染――結愛を傷つけた相手の男の、お抱え弁護士だ。
「それはそれは、奇遇ですなぁ」
父がはっはっはっと声を上げて笑う。流石に表情に出すことはしない。
そしてそれは、伊神も同じだった。
「ええ。お名前は存じ上げなかったのですが、一宮のお嬢様だったんですね。月島さんに付き添われていたと記憶しております」
(この人……)
玲は、自分の顔に強い敵意が浮かびそうになるのをなんとか抑えていた。
私が誰か分かって、明らかにまずい状況なのに、気まずそうな顔一つしない。
彼にとってはあくまで仕事での出来事で、なんの問題もないとでも思っているのだろうか。