冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
「玲さんは今は何をされているんだい? 習い事だとか」
階堂がにこやかに尋ねる。
だが玲に余計なことを言わせまいとでもいうように、父が代わりにそれに答えた。
「いやぁ、実は今、関係企業のほうで軽く仕事をさせてるんですよ。結婚までという約束でね」
「お父さん!」
玲は慌てて父のほうを見た。
こうして玲の意思に関係なく話を進めるのをやめて欲しい。これまでも何度もそう思い、伝えてきたのに。
「伊神くんも多忙だから、結婚したら家で支えてあげる人がいないとなぁ」
それが常識だと疑いもせず笑う父と階堂の前で、玲が下唇を噛んだ時だった。
「ご自身でも社会に触れようとなさる姿勢は、ご両親が常々、そうした素晴らしい意識をお持ちだからなのでしょうね」
助け船を出したのは、まさかの伊神だった。
穏やかな声色だったが、その言葉はやけに強く玲の耳に響いた。
「私には玲さんのような企業勤めの経験はありませんから、機会があれば普段のお仕事のお話を伺えればとてもありがたいですね。もちろん、ご無理のない範囲でですが」
一瞬父は動きを止めたが、遠回しに自分を褒められたことによってそれを否定することもできず、あははと笑った。
「よかったなぁ玲、彼はお前のわがままも尊重してくださいそうだぞ」
玲はこの場の全てに、頭を抱えたくなった。
彼の言葉はありがたかったが、そもそも彼のことを信用できないという大前提がある。
彼も分かっているはずだ。いや、分かっていて欲しい。
玲が絶対に、彼のことを好きになるはずがないと。