「好き」の2文字が言えなくて
初プロジェクト

「お疲れさまでした!」

 それは、社長の挨拶で始まった。
 今日は私が初めて関わったプロジェクトが終了し、そのお店のプレオープンイベント後の打ち上げに参加している。
 乾杯の掛け声の後、近くにいる人たちと手に持ったグラスを掲げて口をつける。

 こういう場で飲むシャンパンはとびきり美味しいのだと知った。

「麻莉亜ちゃん、お疲れさま」
「久美さん、お疲れさまでした」
「入社してすぐにこのチームに入れられて、本当に大変だったでしょう」
「はい、でも、すごく勉強になりました」
「本当によく付いてきたよ。偉い、偉い」

 「よくがんばりました」と頭を撫でてくれる久美さんは、この会社で働いて5年になるというアナリストで、私の指導をしてくれた優しい先輩。

 私が勤めるこの会社は飲食店関係のコンサルティングや食品等の輸入、またそれらを契約店舗に卸したりする食品に関する業務を行っている。

 ここの社長さんが仲間と始めた輸入食品の販売がスタートだと聞いたが、その後知り合いから相談を受けるようになりコンサルティング部門を考えるようになったのだとか。

 一部の役員が思い描いていた構想を実現させたのが、今回のプロジェクトではマネージャーであった悠貴くんと悠貴くんの同期の前田さんだと聞いている。

 私の入社式で社長が今となっては伝説だと、その時のエピソードを語るくらいにすごいことをしてきたんだと思うと、悠貴くんのことを尊敬せずにはいられない。

 コンサルティングの仕事が増えるようになり、会社の規模も大きくなって、業績も上がったそうだ。

 私は大好きな悠貴くんが勤めているからという、かなり不純な動機で入社したのだが、そのコンサルティング業務に彼とともに携われるのだから、全力で頑張っていこうと思っている。

 入社動機はなんであれ憧れの人と同じ会社に入ることを目標として勉強も頑張った結果、その夢を叶えることができた私の人生はまあ順調だと思う。

 悠貴くんと同じ部署に配属され、さらに同じプロジェクトに関わることができ、私にとってここはまさに天国だ。毎日、悠貴くんの姿を見られると思えば、初めてのことばかりでいろいろ大変でも、どんなに忙しくても楽しくてしかたない。

< 1 / 33 >

この作品をシェア

pagetop