「好き」の2文字が言えなくて
この複雑な気持ちを誰かに聞いてほしかった私は悠貴くんのことも知る人物に連絡をした。そして、一緒に夕食を食べていたのだが、お酒に酔ってきた私は不安と不満が止まらなくなっていく。

「はあぁ……」
「ん? 大きなため息ね」

「もうイヤだ」
「何がイヤなの? ご飯美味しくなかった?」

そんなはずはないと分かっているのに、そう聞いてきたのは私の家の隣に住んでいる従姉の珠里ちゃん。悠貴くんの親友の姉という立場なので、当然私の気持ちも知っている。

そんなこともあり、ここ最近の出来事を聞いてもらいたくて「外で会って話したい」と連絡していたのだ。

「今晩のご飯もワインも美味しかった。珠里ちゃんに連れてきてもらうお店はいつも美味しいところばかりで、イヤだっていうのはそこじゃないのよ」
「まぁ、美味しかったならいいんだけど。このタイミングでそんな大きなため息なんかつくから、何のため息なのか気になるでしょう」

ニヤリと笑った珠里ちゃんは肘をテーブルにつき頬杖をついて、私のため息の理由を聞いてくる。

「それで?」
「本当に美味しかったし、珠里ちゃんとの時間は楽しいの。でも……」
「でも、って。どうせ、またあいつのことでウジウジ悩んでいるんでしょう」

いきなり図星をさされ、グッと黙った私にため息まじりで続けられる。

「それで、今日はあいつに仕事のことでも注意されて落ち込んでるわけ?」

顔を上げて首を横に振り「違う」と答えた。

「怒られる方がまだいいよ……」
「じゃあ、またどこかの女に告白されてるあいつでも見た?」
「……う、そんなのはいつもだよ。というか、珠里ちゃん『また』って、悠貴くんが告白されてるところ見たことあるの!?」
「高校生のころね」

今まで聞いたことはなかったけれど、当たり前だと言う感じで話されると、ため息は一層大きくなる。
項垂れる私に珠里ちゃんが慌てて言葉を追加する。

「あ、大丈夫よ。あいつはどんな女に告白されても断っていたから。心配いらないわよ」
「心配しかないよ。悠貴くんの好みタイプとか私、知らないし……」
「それ麻莉亜が心配することないわよ」
「もう、なんでそんなこと言えるのかわかんないよ」

複雑な想いが大きなため息になって溢れた。

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