「好き」の2文字が言えなくて
アプローチ
プロジェクトも中盤に差し掛かった頃、1人で休憩スペースにいた時、視線の先に真っ赤なパンプスが見え顔を上げた。
そこに立っていたのは工藤さんだった。なぜ、ここにいるのだろうと不思議に思っていると、唐突に話し始めた。
「あなた宮田弁護士の姪だったんですって?悠貴さんとは入社前から知り合いだったのね」
「えぇ、それがなにか?」
宮田弁護士は私の伯父であり、珠里ちゃんや和真くんのお父様のことなんだけど、仕事とは関係のない話題を急に振られ、首を傾げる。
「回りくどく言うのは好きじゃないから、はっきり言うわ。あなた目障りなの」
「えっと……あの」
「私と悠貴さんは近いうちに婚約するの。だから、悠貴さんが社長とあなたのことを話しているのが気に食わないの」
「社長と悠貴くんがなぜ私のことを話しているのか、わからないんですけど」
「ははっ! あなた、そんなことも知らなかったわけ。なんだ、余計な心配だったかしら」
嘲笑いをする工藤さんの顔が、自分は悠貴くんの特別なのだと言っているようで嫌だった。
「そんなことって、何ですか?」
「悠貴さんは社長の甥なのよ。彼は次期社長という立場にいるの」
「え……社長の甥?」
上から目線でしか話してこない工藤さんに、ムッと顔をしかめて言い返すと、驚きの事実が返ってくる。
「そうよ。だから、彼は常務である私のお父様とも親しくしていて、私ともお付き合いすることになって、先日、プロポーズしてもらったのよ」
「プ、プロポーズって、誰が」
「いやね、誰がって悠貴さんが私によ。こんなこと何度も言わせないでよ」
悠貴くんが社長の甥で、彼女にプロポーズしたって言ったの?
私が知らなかった情報が工藤さんから一気に伝えられて、私は混乱していた。