「好き」の2文字が言えなくて
久しぶりに時間が空いた俺が休憩スペースに行くと前田が一人でいたので声をかけた。
「よう、その後どうだ。まあ、前田のチームならうまくいっていると思うけどな」
「まあな。うまくはやってる。メンバーもいいし順調なんだけど、最近村井さんの様子が気になってな」
「村井さんがどうかしたのか?」
思いもかけず麻莉亜の話が出て、俺は少し驚いた。
「なんというか、すごく必死に頑張っててさ。痛々しい感じがする」
「痛々しいって」
「三上の知り合いの子だったよな。何か聞いていないか?」
ここのところ麻莉亜と話す機会もなく、「いや」と首を横に振る。
「そうか。まあ、彼女、頑張ってるよ」
「あぁ、頑張り屋だからな。それが心配の種でもあるがな」
「これから休憩なんだろう? 俺はもう行くわ。じゃあな」
前田と別れて考えたのは麻莉亜のこと。
少し前に麻莉亜が酔って眠ってしまい和真と迎えに行った。あそこまで酔うなんて、なにか悩みがあるのだろうとは思っていた。
俺にも相談できないことなのだろうか。
前はもっと頼ってくれていたのにな。頼りにされなくなり、寂しいと感じている自分がいる。
麻莉亜は誰よりも大切な存在だ。
俺の麻莉亜に対する気持ちは以前と変わらない。
ところが最近、俺は職場では常務秘書の工藤さんに付きまとわれることが多く疲れていて、麻莉亜の様子をしっかりと見ていられなかった。
「もう少し気にかけてやりたいのにな……」
工藤さんは常務の一人娘で、なんでも自分の思い通りになると勘違いしている人だ。電話で済むことでも俺のところに来てはベタベタしてくる。
彼女は自分勝手で俺が1番嫌いなタイプの女だった。
しかも、来たらたいてい常務の所に連れて行かれ、仕事の効率がガクンと落ちてしまった。
邪魔でしかないが、邪険にも出来ない、面倒な存在だ。
「工藤さん、ここは職場です。こうして腕を組んできたり、身体に触れるのはやめていただきたい」
そう注意してはみたが「でも、三上部長と少しでもお近づきになりたくって」と言って離してくれない。
会社を、仕事をなんだと思ってるんだ。
真面目に働けと言ったところで、聞く相手でもないので放置しているが、そろそろなんとかしないとな……そう考えていた。