「好き」の2文字が言えなくて
「田島さん、村井さん、お疲れさまでした」
労いの言葉をかけ笑顔で近づいてくるのは、先ほど社長の隣で挨拶をしていたマネージャーの三上悠貴さん。
私が小学生の頃から憧れている人だ。
今日もスーツ姿が様になっていて素敵だ。
「どうもお疲れさまでした。三上マネージャー」
隣にいる田島久美さんが悠貴くんに応える横で、私は軽く会釈をし2人の会話に耳を傾けていた。
すると、悠貴くんが私に視線を向けてきた。
「村井さんも初めてのプロジェクトでいろいろ大変だっただろう。新人には厳しいとの声が大きかったんだが、本当によく頑張ったよ」
うー、この笑顔を見られただけで、ご褒美をもらえた気分。
嬉しくてニヤけそうになる顔を引き締めて2人に笑顔で答える。
「はい。ありがとうございます」
「ホントですよ。麻莉亜ちゃんがマネージャーの言われる通りの頑張り屋さんで助かりました」
「え? マネージャーの言う通りって……」
「麻莉亜ちゃんが入社してすぐに1人辞めてしまって、その分皆に負担がかかっていたでしょう。そうしたら新人をいきなりチームに入れるって言われて。普通、新人はサポート業務をしてもらってからなんだけど、麻莉亜ちゃんなら大丈夫だって言って参加させちゃうんですもん」
「でも、言った通り大丈夫だっただろう」
「えぇ、まぁ。でも、本当に大変だったと思いますよ」
「ねぇ」と、久美さんの視線が私に向いたので、頷いてみせる。
「大変でした。でも、皆さんに助けてもらえて、やりがいもあって、毎日楽しかったです」
久美さんが「私も麻莉亜ちゃんと仕事ができて、楽しかったわ」と笑顔でハグしてくれたので、プロジェクトを無事終了したという達成感と、感慨深い気持ちで私の心はいっぱいになり、うるっとしてしまう。
実は、こんなによく面倒をみてくれ、プライベートでも親しくしてくれてる久美さんにも話していないことがある。