「好き」の2文字が言えなくて
「どうしたの? 頬が少し赤いね。アルコールきつかったかな」
私の頬に、彼の少し冷たい指が触れ、ビクッと身体が震えた。
もうそれだけで、心臓が止まりそうだった。
ドキドキとうるさい胸の鼓動を感じて、動揺しつつも彼の瞳を見つめる。
2人の間に沈黙が流れる中、ブルブルというスマホの振動音が聞こえてきた。
「悪い。ちょっと失礼」
着信相手を確認した悠貴くんがそう言って席を離れた。
1人残された私は、半分に減ったオレンジ色のカクテルを眺め、いろいろと考えてしまう。
誰からの電話だったのだろう。仕事の電話かな?
もしかして、工藤さんからの電話?なんて嫌な想像をしてしまったら、落ち着いていられなくなりグラスの中のカクテルを一気に飲み干した。
「すみません、このカクテルをもう一杯お願いします」
バーテンダーにおかわりを注文して、届けられたばかりのカクテルを飲んで、ポロリと呟く。
「なかなか戻ってこないな……」
時間が経つほどに不安が募ってきて、気がつけばグラスの中は半分ほどになっていて、だんだんとほろ酔い状態になっていた。
ボーっとただ目の前のグラスを眺めていると、隣に人の気配を感じ顔を向ける。
「君、1人?」と声をかけてきたのは、見知らぬ男性だった。
「いえ、あの……」とうまく断れないでいると、勝手に隣に座って話をしてきた。
ただ黙って聞いていた私の方にその男性が手を伸ばしてくるのが見え、反射的に身体をこわばらせるが触れてはこない。
「悪いが彼女は俺の連れだ」
悠貴くんの低い声が聞こえ、その男性の手を掴み鋭い目で睨んでいた。
その男性は「チッ、男がいたのかよ」と言って離れていった。
「あ、ありがとう……」
「まったく、あの手の男にははっきりと断らないといけないよ」
「はい、すみません」
「いや、俺が席を外したのがいけなかったんだよな。ごめん」
「いえ、謝っていただくことではないので。本当にすみません。あの、助かりました」
「まだ時間は大丈夫? もう少し飲まないか?」
「時間は大丈夫です」
「次は違うものを頼むかい?」
「他にもお勧めはありますか?」
「あるよ」
そんな会話をした後に届いた次のカクテルも美味しくて飲みやすかった。すっかり飲み干してしまうと急に眠気が襲ってきて、私は意識を手放した。