「好き」の2文字が言えなくて

 目が覚め気がついた時はカーテンの隙間から日が差し込み部屋が少し明るくなっていた。
 少しずつ覚醒したところで辺りを見ると、そこは見慣れない部屋。

「えっ……ここ、どこ?」
「おはよう」

 ふと溢れた言葉に隣から返事が返され驚いた。

「前にも言ったが、強くないんだから飲み過ぎたらダメだぞ」
「な、なんで!? なんで悠貴くんがここにいるの!」
「麻莉亜が酔って眠ってしまったから、部屋を取った」

 私は慌てて自分の状態を確認する。着てきた服ではなくバスローブを身に着けている。下着はそのままだった。

「何を心配してるのか知らないけど大丈夫だよ。昨夜は手を出してないから」

 悠貴くんは肘枕の状態で私を見つめ、空いている方の手で私の頬に触れてきた。

「て、手を出してないって?」

 着ていた服はシワになるといけないから、と脱がしたとか言われた。それだって十分恥ずかしいんだけど。

「昨夜は理性を保ったから、安心しろよ」
「もう、なんて恥ずかしいこと言うのよ。でも、悠貴くんは私だってわかってたの?」
「初めに声で麻莉亜だと思って振り向いた。でも、姿がいつもと違いすぎて戸惑ったよ」
「声で? 初めからわかってたの?」
「姿を見て別人だと思ったけど、声だけじゃなく何気ない仕草を見てて麻莉亜だと確信した。それと、珠里さんの電話な」
「え? 珠里ちゃんの電話って……」

 話しながら、悠貴くんは体を起こし、私も隣に座らされる。

「俺が電話で席を離れたろ。最初の電話は工藤からだったから、麻莉亜に聞かれたくなくて離れていったんだが、続けて珠里さんから電話がかかってきてな、長くなった」
「そうだったんだ。初めからバレてたなんて」

 昨夜の一大決心は何だったのだろうか、と思うとがっくり力が抜けた。

「お前な、俺たちどれだけ長い時間一緒にいたと思ってるんだよ。どんな麻莉亜でもすぐにわかるさ」
「珠里ちゃんは絶対にわからないから大丈夫だって……」
「わかるよ。好きな女なんだ。どんな姿で現れてもわかる」
「えっ? 今、なんて……」
「麻莉亜のこと、好きだって言った」

 膝に置いた手を取られ、その手の甲に悠貴くんの唇が触れた。
 私は驚きすぎて思わず手を引っ込め、悠貴くんの顔を見た。

「本当に?」
「そこ疑うのかよ。まあ、長く一緒にいたから、伝えなくてもわかってるって思っていたのもいけなかったな。ずっとそばにいるのが当たり前になってて『好き』の2文字が言えなくなった。それと余計なことを考えてしまったからな。そのせいで麻莉亜を不安にさせたよな。ごめん」

「そんなことない」と、私は首をブンブンと横に振る。
「よかった」と悠貴くんは笑って私の肩に手を置いた。
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