「好き」の2文字が言えなくて

 私の家に着いたのはお昼前で、悠貴くんと2人で現れたのだから母も祖父母も驚いていた。帰る途中で珠里ちゃんにも連絡をしていたので、彼女も来てくれていた。

「ほらね。私の作戦は大成功じゃない」
珠里ちゃんはそう言って、喜んでくれた。

 私の部屋に入ると、悠貴くんがベッドの端に座り、自分の隣に座るようにと手を引いてきた。

「麻莉亜、ごめんな。昨夜、珠里さんに言われて、工藤のことでそんなに悩んでいるって知らなかった。不安にさせて悪かった」

 真剣な声で謝られ、本人に確認しないでいたことを反省した。

「ううん。珠里ちゃんに何度も本人に確認しなさいって言われてたのに、答えを聞くのが怖くて逃げてたの。その、2人がすごく大人っぽくてお似合いだなって思って」

「俺は最近北沢が麻莉亜にちょっかい出してるのを見て、まずいって思った。それこそ、年が近い方が会話も合うしいいんじゃないかって考えたことがあった」
「北沢さんとは普通に仕事の話しかしてないよ」
「だぶん、そう思ってるのは麻莉亜だけだよ」
「うーん、そうかな? 確かに一緒にいる時間は長いけど、2人きりでどこかに行ったりとかはないし、心配するようなことはないよ」
「麻莉亜は俺の気持ちにも気づいてないくらいだし、やっぱり鈍いな」
「もう、鈍くないよ」

 口を尖らせ、ポカポカと悠貴くんの胸を叩いて抗議した。

「こら、拗ねるなよ。かわいすぎるだろ」
「はっ? そんな恥ずかしいこと言わないで。慣れてないんだから」
「慣れろよ。これからは遠慮しないで、たくさんかわいいって言うからさ」

 アハハって笑いながら、ギュッと抱きしめられた。

「いろいろきちんとしないとな」

 頭の上から悠貴くんの真剣な声が聞こえた。



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