「好き」の2文字が言えなくて
決着をつけよう

 俺が工藤さんと待ち合わせをしているホテルに着くと彼女がすぐに近づいてきた。

「悠貴さん。お待ちしてましたわ」
「工藤さんに名前で呼ばれる間柄ではないと何度言ったらわかってもらえるんでしょうね」
「あら、私たちは婚約するんですよ。名前で呼ばない方がおかしいじゃないですか」
「だから、その話は最初からお断りしてます」
「まだそんなことをおっしゃるんですか? 社長も私の父も賛成していて、これで安心して裕貴さんに会社を任せられると喜んでいらしたのに」

 彼女は凝りもせず俺の腕に腕を絡ませて身体を寄せてくる。そして、空いている方の手を俺の肩に乗せて顔を近づける。

 何を何度言っても俺の気持ちが彼女には向かないことを理解しない。

 仕方なくそのままエレベーターに乗り、目的の階のボタンを押すとエレベーターは上昇していく。フレンチ料理のお店の前で、名前を告げると奥へと案内される。

 ここはホテルの上層階にあり、その夜景が綺麗だと有名なお店だ。個室でもその夜景を楽しむことができ、落ち着いた空間で食事が取れる。

 だが、今日はこの件がすっきりしない限りは、落ち着いて美味しい食事を楽しめるのか疑問だった。
 いつになく緊張して廊下を歩いていると、部屋の前に着いたようだ。

「こちらのお部屋になります」
 ギャルソンが部屋の扉を開けると、中には俺が呼んでおいた麻莉亜がすでに席についていた。

「あなた!? なんでここにいるのよ!」

 麻莉亜の姿を見つけた瞬間に横にいた工藤が声を荒げ、それに顔をしかめる麻莉亜に若干の罪悪感を感じた。

「俺が呼んだんだ。今日、ここで、君との関係をはっきりさせるためにね」
「じゃあ、その女に彼女との関係は遊びで、結婚は私とすると言ってくださるのかしら?」

 未だに自分が俺と結婚できると疑わない工藤に呆れるが、納得しない限りは諦めそうもないので出た強硬手段だった。

「いや、君とは結婚しないと何度言ってもわかってもらえなかったから彼女を呼んだんだ」
「ああ、彼女に身の程をわきまえさせるためね」

 人の話をまったく理解しようとしない嫌な女だと思いながら、俺は俺の腕に絡められた工藤の腕を静かに外し、いまだに理解できていない工藤の前に立ち、目を見てはっきりと言い切った。

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