「好き」の2文字が言えなくて
「俺は彼女と、村井麻莉亜さんと結婚する」
「はあ!? 悠貴さん、あなた何言っているの!? あんな子、あなたに釣り合いが取れる子じゃないわ」
「まったく……」
これだけ言っても通じないとはすごい思い込みだと呆れた。
「ずっと前から俺は君にどんなに言い寄られてもなびくことはないと言っておいただろう」
「そんなこと言ってたって、そんな若いだけが取り柄の子なんてすぐに飽きるでしょう。私ならあなたに確実な将来を約束できるのよ」
工藤さんと一緒に現れたことに驚いている麻莉亜に近づいていく。
「残念だけど、飽きることは絶対にない。俺は麻莉亜が小学生の頃からずっと想いを寄せていたんだから」
麻莉亜の前に着くと膝をついて彼女の手を取る。
「えっ? 悠貴くん!?」
「ずっと麻莉亜が大人になるのを待っていた。待ちすぎてタイミングを逃して、俺じゃ麻莉亜の相手に相応しくないと考えて、気持ちを伝えられなくなってしまったこともあったが、やはり結婚は麻莉亜以外は考えられない」
「私も……悠貴くんの横に並ぶのに私じゃ相応しくないと思ってたけど、今ならちゃんと応えられる。ありがとう」
「お互いに近くにいすぎて、『好きだ』と伝えるのが遅くなったな」
お互いに遠慮して、遠回りしてしまった時間を思い出し、ふっと苦笑いをした。
「麻莉亜、愛してる」
彼女の手を取り甲に額を当てこの気持ちがしっかりと伝わるよう、祈りを込める。
呼吸を整えてから顔を上げて、麻莉亜の澄んだ瞳を見つめ、真剣な声で伝える。
「結婚しよう」
そう言って、ポケットに入れておいたケースを出して蓋を開けた。
中にはキラリと光るダイヤモンドの指輪があり、俺は指輪を取り出した。
いきなりのプロポーズに麻莉亜はまだ状況が飲み込めていないのか、呆然と目の前に見せられた指輪に視線を向けている。
「えっ? いつから用意してたの」
「この前、麻莉亜と朝帰りした後、すぐに選びに行った」
自分でも驚くほどにすんなりと行動できたことに「クスッ」と笑いがこぼれた。
笑顔の彼女に手を差し出し、左手の薬指に指輪を嵌めていく。しっかりと指の奥に収まった時、ようやく緊張が解けてホッとした。
「麻莉亜。長い間待たせたな。この前も伝えたけど、俺はお前が好きだ。麻莉亜以外の女性と結婚するなんてありえない。だから、麻莉亜も俺のことが好きだと言ってくれたあの気持ちが本当なら、ずっと俺と一緒にいると約束してくれ」
チュッと嵌めたばかりの指輪に口付けた。
「……はい」と麻莉亜の声が小さく聞こえたと思ったら、麻莉亜が大粒の涙をこぼしながら俺に抱きついてきた。
麻莉亜の突然の動きにバランスを崩しつつも嬉しさがこみ上げた。