「好き」の2文字が言えなくて
やっと、この腕の中に麻莉亜を抱くことができた安心感からフッと緩みそうになる口元を引き締めて、麻莉亜と一緒に立ち上がると後ろにいる工藤さんを振り返る。
「工藤さん。さすがにもうわかったでしょう」
頬が緩む俺とは対照的に、顔を引き攣らせ手を震わせている工藤さんが怒鳴り声をあげる。
「こんなところまで連れてきて、こんなものを見せられて。まったく私を馬鹿にして、このままでいられると思ってるの!」
「このままでいられないのはあなたの方だ。あなたは秘書としての仕事もせずに周りに迷惑ばかりかけていましたよね。さすがに常務もかばいきれなかったようですよ」
「もう、馬鹿馬鹿しくてやってられないわ」
「じゃ、そういうことで。そろそろ2人きりにしてもらえませんか?」
「ふん!」
工藤が部屋を出ていき、バンッと大きな音をたてて扉が閉まる音を聞いた。
俺の腕の中にいた麻莉亜がその大きな音に身体をビクッとさせていたので、安心させるようにしばらく背中をさすってあげた。
「悠貴くん。工藤さんのこと大丈夫なの? 仕事に変な影響があったらと思うと心配になるんだけど」
「大丈夫だよ。伯父である社長には麻莉亜と結婚すると伝えてきたし、伯父も俺が結婚することを喜んでくれたよ」
「本当に?」
「本当だよ。あと、何を言ったら麻莉亜は安心できるのかな?」
俺の腕の中にいる麻莉亜の顔をのぞき込むと麻莉亜が瞳を右へ左へと動かし、恥ずかしそうに小さな声で囁く。
「じゃ、……して」
「麻莉亜? よく聞こえなかった。もう一度言って?」
「……キス、して……」
「了解しました。俺のお姫さま」
俺を見上げる麻莉亜の頬が赤く染まり、見ている俺まで恥ずかしくなってきたが、愛しい女性からキスをおねだりされる喜びに胸を弾ませながら、麻莉亜の頬を両手で包み彼女の唇にしっかりと唇を重ねた。
「もう、絶対に離さないぞ」
「私だって、もうずっと一緒にいるって決めたから、絶対に離れたりしないよ」
お互いの気持ちが確認できたことに安心し、視線を絡ませていると吸い寄せられるようにもう一度キスをして、唇を離したところでひと息つくことができた。
「ふう。いろいろあったし、さすがにお腹が空いたな。食事の準備をしてもらおう」
「うふふ。確かにお腹が空いてるかも」
ようやく心の底から笑い合うことができ、2人で美味しい食事を堪能した。