「好き」の2文字が言えなくて
食事の後、このままホテルを出て家に帰るだろうと考えていた私は、エレベーターを待っている間なんとも言えない寂しい気持ちになっていた。やっと、想いが通じたのに今日家に帰ったら、やっぱり夢だったんじゃないかと考えてしまう自分がいた。
左手の薬指に輝く指輪を見ても実感がわかないのは、工藤さんに言われた「釣り合いが取れない」という言葉のせいだろうか。自然と視線が下がっている私の手を隣に立つ悠貴くんが握ってきた。
「今日は帰したくないって言ったら、麻莉亜を困らせるか?」
頭上から下りてきた悠貴くんの言葉に下を向いていたはずの顔を上げ悠貴くんを見た。
「えっ!?」
「お前、顔真っ赤だぞ。でも、その顔は困ったって顔じゃないよな?」
腰を曲げて目線をそろえてきた悠貴くんが私の顔をまじまじと見てくる。恥ずかしくて視線が泳ぎそうになるけど、逸らしてはいけないと思い素直な気持ちを口にした。
「う、うん……。私ももっと一緒にいたい」
「そうか。よかった」
蕩けそうな顔をした悠貴くんの顔が見えたと思った時、エレベーターが到着し扉が開く。繋いだ手を引かれて一緒に乗り込むと、悠貴くんが押したボタンは客室フロアだった。
「えっ!? 部屋、取ってたの?」
「もちろん。麻莉亜の気持ちはもうわかっていたし、プロポーズを受けてくれたら俺のものにしようと思っていたしね」
「もう……恥ずかしい」
「恥ずかしがる麻莉亜も可愛いな。この後俺の手でもっと可愛く、もっと綺麗にしてやるよ」
そう言った後、私の唇に温かくて柔らかい悠貴くんの唇が触れた。
悠貴くんの唇がしっかりと重なり、熱い舌が私の唇をつついて開かせる。熱い吐息とともに舌を絡ませてくる濃厚なキスにのぼせてしまいそうになっていると、悠貴くんの唇が離れる。
「……まずい。早く部屋に行こう」
そんな悠貴くんの呟きに、身体中が熱くなった。
エレベーターが到着したのはレストランフロアより上階で、入った部屋はスイートルームだった。
部屋に入るなり抱き上げられ、ベッドの上に下ろされる。