「好き」の2文字が言えなくて

 月曜日、私は悠貴くんに言われた通り指輪をして出勤した。

「おはようございます」

 私は事務所内に入り挨拶して、最近私たちのチームが使っているテーブルにバッグを置いた。置いたところで目ざとい久美さんが反応した。

「おはよう、って。麻莉亜ちゃん、その指につけてる指輪って、もしかして……」
「えっ!? 指輪ってなんですか!」
「北沢くん、大きな声出さないでよ」
「だって、田島さん。村井さんの指輪って左手薬指についてるんですけど」
「まあ、収まるところに収まったって感じでしょう」
「収まるところって。相手の人、知ってるんですか?」
「本当に気がついてないの?」

 久美さんが私に視線を向けてきたので、自分で言いなさいということなんだと思って、一呼吸していると、後ろから私の腰に手が回ってきた。

「そういうことだから、もう麻莉亜にちょっかい出すなよ」

 私の頭越しに聞こえてきた声に私と前にいた北沢さんが驚いていた。
 久美さんは指輪の送り主が誰だかわかっていたらしく笑顔で頷いている。

「え!? マジですか?」
「ここで冗談なんか言うわけないだろう」
 間を置かずに答えた悠貴くんの言葉を北沢さんは私に確認してくる。
「えっ、村井さん、本当に?」
 北沢さんの問いに照れながら頷いた。

「三上部長が相手とか、敵うわけないじゃん。いつから付き合ってたんですか?」
「えっと……」

 どこから付き合っていたかなんて、私もスタートがわからないから答えられず困っていると、後ろに立つ悠貴くんが答えた。

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