「好き」の2文字が言えなくて
「麻莉亜が入社する前からだ。もう、正式に婚約もしたし、俺たちの絆は10年以上も続いている」
「ハァ……」
「北沢くんは本当に2人のことに気がついてなかったのね。あんなにわかりやすかったのに」
「そういえば、田島さんにはすぐにバレてたよな」
「もうバレバレで、こっちが恥ずかしかったですよ」
私でさえ気がついていなかった私たちのことにすぐに気がつくあたりが、久美さんが優秀なコンサルタントだと思うところだ。
「お互いに気持ちを隠そうとしていたところが見ていて歯がゆかったですけどね」
「そうだったのか。隠していたわけではなかったんだが、麻莉亜は仕事を始めて間もなかったし、お互いに遠慮していたんでね」
「麻莉亜ちゃんが幸せになってくれるならいいですよ。というより、三上部長、麻莉亜ちゃんをもう不安にさせないでくださいね。幸せにしてあげてください」
「もちろんだ」
「はい、幸せになります。久美さん、ありがとうございます」
こうして話しているうちに勤務時間になり、朝のミーティングで私たちが婚約したことを発表し、他の職場の方からも祝福してもらった。
半年後、私が関わっていたプロジェクトが終わった。今日はその打ち上げだ。
「麻莉亜ちゃん、お疲れさま」
「久美さん、お疲れさまでした」
2人でハグしていると前田マネージャーと北沢さんも「お疲れ様」と言って横に立っていた。
「前田マネージャーも北沢さんもお疲れさまでした」
「無事に終わって安心したな」
「本当にいろいろ助けていただいて、ありがとうございました」
私が挨拶をしていると、後ろから私の腰に腕が回ってきた。
「みんな、お疲れさま」
私の横に並んだのは悠貴くんだった。
「よう、三上もお疲れ。お前の方がいろいろ大変だっただろう」
「まあな。でも、毎日彼女に癒してもらってるから、無事に乗り切れてるよ」
「はぁ、ごちそうさん」
私たちは職場で婚約の発表をして間もなく、一緒に暮らし始めた。
今は毎日幸せでたまらない。
悠貴くんと前田マネージャーが仲良く話しているのを横で聞いていたが、悠貴くんの身体が密着していて恥ずかしくなる。
こんなに素敵な彼の横に並んでも恥ずかしいと感じないように、もっと自分に自信をつけなきゃ、と考えていると久美さんが声をかけてきた。