「好き」の2文字が言えなくて

「お二人の信頼関係があってこそでしたね」
「いえ、田島さんや他のメンバーが彼女を引っ張って、支えてくれたからこそですよ。僕も彼女なら皆さんについていけると信じていましたし、いい結果に繋がってよかったです」
「一番支えていたのは三上マネージャーですよ」

 2人が私が携わってからのことを振り返っている。

「本当に偉かったな」
すっと伸びてきた悠貴くんの大きな手が視界に入りハッとした。

 頭にその大きな手をのせて撫でてくれる悠貴くんに嬉しさが溢れそうになっていると、横で私たちの様子を見ていた久美さんが口を挟む。

「あら、三上マネージャー。それってセクハラじゃありません?」
「えっ!? そう、なのか?」

「ごめん」と心配そうな顔で私を見つめてくる悠貴くんの瞳をのぞき込んでしまった私は息が止まりそうになった。

「あ、大丈夫です。なんだか、懐かしかった……です」

 ギリギリで気持ちを押さえ込み、笑顔で返せたはず……と思っていると、久美さんがニコリと微笑んでいた。

「あ、三上マネージャーは麻莉亜ちゃんの家庭教師をされていたんでしたっけ。今のはお二人の信頼関係がしっかりしてるから、ということで見なかったことにします」
「はは……まいったな」
 悠貴くんは困った様子で言葉をつまらせ、私に視線を向けて、お互いに顔を見合わせた。

「ふふふ。三上マネージャーのファンの子が見たら卒倒しそうですね」
「え……ファンって?」
「麻莉亜ちゃんはまだ知らないかもしれないから教えておくわね。うちの社で三上マネージャーと前田マネージャーにはファンクラブがあるのよ」
「ファンクラブって、えっ!? ゆ、悠貴くん、本当?」
「田島さん、大袈裟だな。ここは会社なんだし、そんなのある訳ないだろう。冗談だよ。
それに村井さん、俺のこと会社では名前で呼ばないんじゃなかったか」
「はっ、すみません。三上マネージャー」

 驚きすぎて思わず名前で呼んでしまったことに慌てて何度もペコペコと頭を下げていると、久美さんが私に微笑みかけてから、続きを話す。

「まあ、正式なファンクラブがある訳ではないですけど、それくらい人気があるということです」
「……まったく。田島さん、いくら打ち上げだからって。ほら、この話はお終いだ」

 苦笑いを浮かべた悠貴くんが話を終わらせ、周りを見渡し「じゃあ、失礼」と、右手を軽く上げて離れていった。

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