「好き」の2文字が言えなくて

 久美さんと2人になると私より2年先輩の北沢さんが話しかけてきた。

「田島さん、村井さん。お疲れさまです」
「北沢くん、お疲れさま。今回はそれぞれ忙しかったから会話が減っていたわね」
「本当ですよ。僕は別のプロジェクトだったから、村井さんとは毎日挨拶しかできませんでしたよ」

 悠貴くんの後ろ姿を眺めていた私は自分の名前が出て慌てて反応した。

「あ、はい。北沢さん、お疲れさまです」
「やっと村井さんとお話ができる。僕は村井さんより2年先輩になるんだ。だから、困ったことがあったらなんでも聞いてね」
「ありがとうございます」
「今度のプロジェクトでは一緒に仕事ができるといいなって思ってるんだ。次のメンバー発表が楽しみだね」
「あ、はい」

 返事をしながらも私は離れていった悠貴くんが気になって仕方がなかった。

 同じ会社で働くようになってわかったことは、悠貴くんは私が想像していたよりずっとモテて、毎日のように誰かに憧れの眼差しで見られているということ。

 視線の先に見えるのは女性たちに囲まれている悠貴くん。

 悠貴くんは180センチと背が高く、端麗な顔立ちで、声は落ち着いたトーンで王子様みたいな人。モテるのは納得なんだけど、私の気持ちは複雑だ。

「まったく、悠貴くんったら、カッコよすぎて困る……」
はぁ~と、大きなため息が出た。

 ファンの中には告白して振られたけれど、悠貴くんに特定の相手がいないからとファンでい続けている人もいるらしい。

 断られても諦めないって、それだけ想いが真剣なのか。それとも、期待を持たせるような断り方だったのか。

 そういえば、この前もクライアント企業の担当者さんから「この仕事が終わったら、プライベートでお付き合いしていただきたいのですが……」なんて告白されているのを見かけたな……。
その後、悠貴くんがなんて答えるのか気になってこっそり見ていたんだっけ。

 幸いその時の人には、お断りの返事をされていたみたいで安心した。でも、そんな場面を見るのは心臓に悪いとしみじみ感じたものだった。

 それからしばらくして次のプロジェクトの話があり、メンバーが発表された。
< 6 / 33 >

この作品をシェア

pagetop