「好き」の2文字が言えなくて
今回からコンサルタントとして参加している田島さんと、私と同じアナリストの北沢さんがカンファレンスルームに呼ばれ、前田マネージャーから細かい指示を受ける。
「……はい」
「村井さんは初めてアナリストとして参加するんだよね。まずはクライアントの話をきちんと聞いてくること。それから先方の意向をきちんと汲み取れるように。悩んだら相談して」
「はい……」
「しばらくの間は田島さんと北沢さんに付いてやってみて。それと先方との日程調整で俺が参加できる日をチャットで知らせていく。それ以外も連絡事項はチームチャットに入れるからこまめにチェックして」
私にとってプロジェクトに最初から関わることは初めてで、途中から参加した前回とは違う感じで成長できそうだと思う。
悠貴くんが一緒ではないことは残念だけど、2年目でもこれほどの仕事を任せてもらえることが嬉しくて張り切っていた。
うちの会社は基本的にはフリーアドレスになっていて、同じプロジェクトに参加している人たちが同じテーブルで仕事をしていることが多い。一人で集中して作業をするときは、個別のデスクを使う。
どこで仕事をしていても同じフロアにいれば、話すことはできなくても、悠貴くんの姿を見かけることができるので安心できた。
「どんなに忙しくてもそこにいて姿が見られるだけで幸せだな」
学生の頃には浸れなかった幸せに顔をほころばせていた。
ところが、悠貴くんが部長に昇進するという噂が聞こえてきて、その状況は変わってきた。
悠貴くんは経営戦略会議に参加することが増え、最近は同じフロアで姿を見かけることが減っていき、寂しさを感じていた。
そして、噂から数日して辞令が出され、悠貴くんは部長になった。