「好き」の2文字が言えなくて
「ふー。やっとこの資料ができた。次は……」
「麻莉亜ちゃん、それ後でいいよ。そろそろお昼だからランチに行こうよ」
「それじゃ後にします。久美さん、今日のランチはどこに行きますか?」
「最近できたカフェにしない?」
「いいですね」
久美さんとランチの話題をしていると、一緒に作業をしていた北沢さんが私たちに聞いてくる。
「俺も一緒に行ってもいいかな?」
「あら、北沢くんも行きたいの?」
「行きたいです」
「そうね。たまには3人でもいいか」
「北沢さんはいつも同期の方たちと一緒なのに、珍しいですね」
「村井さんとたまには仕事以外の話もしたいからね」
「そうですね。いつも仕事のことばかりですもんね」
北沢さんがウインクなんてしてくるので、ちょっと笑ってしまった。
「うふふ。じゃあ、親睦を深めにいきますか」
久美さんの合図でオフィスを出ていこうと、バッグを持つと、ふと北沢さんの視線を感じた。
私が「なにか?」と尋ねても、ジッと見ている北沢さんに久美さんが声をかけていた。
「ちょっと、北沢くん。何してるの。ほら、行くわよ」
「はい、行きましょう」
素敵な先輩たちに助けてもらいながら、仕事の方は順調に進んでいた。
北沢さんとも打ち解けてきて、お昼の休憩時間も楽しくて、充実した毎日だった。
久美さんたちとお昼を食べて職場のあるビルに戻ってきたところで、前から悠貴くんが歩いてくるのが見えた。
今日の午後は外出なのかな……なんて、久しぶりに悠貴くんの顔が見られて幸せな気分になっていた私は次の瞬間、驚愕する。彼の後ろから「悠貴さん」と呼ぶ女性の声が聞こえ、彼の隣に並んだのが私の目に入った。
隣に並んだかと思ったら、悠貴くんの腕に手をかけて嬉しそうに笑っている女性と、私に気づいて目を見開いている悠貴くんが通り過ぎていった。
「えっ!?」
想像もしたことがなかった光景に驚き、私が声を出してしまうと、隣に立っている久美さんがちょっと呆れた口調で話した。
「最近、三上部長の横によくいるわよね」
「あの女性を知っているんですか?」
「あの人、工藤常務のお嬢さんなんでしょう。常務秘書をしてるらしいけど、三上部長にべったりしてて、何してるんだか……」
「そうなんですか……」
そう言ったまま呆然としてしまい、久美さんが私に視線を向けていたのにも気が付かず、私はそれ以上の言葉を返すことはできなかった。
その後も工藤さんが悠貴くんにべったりと寄り添う姿を目撃することになり、私の心はザワついていた。