愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

それから俺達は友達として仲を深めていった。

塾のない日は必ず図書館に行って柚葉と過ごした。
本を読んだり外で色んな話をしたり。
買い食いやゲームセンターにいったりとかお金を使う遊びは一切しなかった。

柚葉はお金なんて使わなくても楽しく過ごせる事を教えてくれた。

お互いに読んだ本の感想を言い合ったり、時には自分が本の中の主人公になったらどうするか、なんて想像したり。

庭園には沢山の植物が植えられていたからその花の名前を調べたり、流れる雲の形が何に似ているか言い合ったり、クラスメイトとは全くした事のない遊び、それは今までのどんな遊びよりも過ごした時間よりも楽しくて俺はどんどん柚葉と過ごす時間に夢中になっていった。

暑い夏になっても俺達は変わらずに過ごした。

ただ、ひとつ不思議に思う事があった。

柚葉はいつも長袖を着ていた。
出会った頃は暑い日もあるとはいえまだ5月だった事もありあまり気にならなかったけれど、梅雨が明けてどんどんと日差しがキツくなっても柚葉はいつも長袖だった。

「長袖、暑くない?」

何にも考えずにただ単純に気になって、本当に不意に口から出た言葉に柚葉は一瞬酷く苦しそうな顔をした。

そんな柚葉を見て酷く後悔した。
絶対に触れちゃいけない事を聞いてしまったと脳が理解した。

だけど柚葉はすぐにヘラっと笑った、困った様に少し眉を下げて。

「暑いけど、大丈夫だよ」

顔は笑っているのに、話す声は少し震えていた。
バツが悪そうに長袖に包まれた腕を撫でている柚葉を見て反射的に柚葉の腕を取り袖を捲った。

「!!!」

……声が出なかった。

長袖に隠されていた柚葉の腕には大小のいくつもの痣があった。
濃く赤黒い痣に少し黄色がかった痣、それらはこの痣が一度で出来たものではない事を証明していた。

「……これ、誰にやられたの?」

1番大きくて1番真新しい赤黒い痣を痛くない様にそっと撫でながらそう聞いてみる。

「やだなぁ、転けただけだよー」

そう言って柚葉は笑うけど、その顔は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「嘘だ、俺でも分かるよ。
転けただけでこんな痣出来ないよ。
それに柚葉、今凄く泣きそうな顔してる。
……言って、誰にやられたの?
俺がそいつから柚葉を守るから」

嘘じゃない、本気でそう思ってる。

本当の俺を受け入れてくれていつも俺を楽しませてくれて嬉しくて幸せな気持ちにしてくれる柚葉を傷つける奴なんて生きる価値がないと、本気で思った。

「……一哉君」

少し高くてスッと耳に脳に心地よく響く声が俺の名前を呼ぶ。

俺を見る柚葉の大きな目はあの日の様に太陽に反射してキラキラと光っている。

茶色がかっているのもありまるで天使の様だと思った。

きっと俺以外の人間もそう思うに違いない。

「本当に、私を守ってくれる……?」

「当たり前だろ、俺は絶対に柚葉を守るよ。
命をかけても」

小学生の命をかけるなんて言葉にどれ程の重みがあるのだろうか。
きっとほとんどの小学生にとっては軽く出る言葉で真剣さや、ましてや重みなんてないだろう。

だけど、俺は本気で柚葉を守れるなら命をかけてもいいと思っていた。

そんな俺の思いを分かってくれたんだろう、柚葉は一筋の涙を流して、そして泣き笑いみたいな顔で言った。

「ありがとう、一哉君」

その時の柚葉は、凄く綺麗だった。
天使よりも綺麗だと思える程に、恐ろしい程に、綺麗だった。
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