愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る
⑪
それからの柚葉の話は衝撃しかなかった。
父親が2年前に亡くなった事、元々小さいながらも工場を経営していた父親が亡くなった事で工場は閉鎖、借金があったが母親が遺産を全て放棄したためその借金を背負う事はなかったがその代わりに家も財産も全て失った。
今は母親とふたりで狭く古いアパートで暮らしているが、父親が亡くなる前までは多少なりとも裕福で不自由のない生活をしていた母親は今の生活に耐えられずに柚葉に暴力を振るう事でストレスを発散する様になった。
……そんな事が本当に起こるのかとどこか現実感がなかった。
俺も親からは放ったらかしにされているけれど暴力とかはない。
もしかしたらネグレクトとかいうものに当てはまるのかも知れないけれど、金は好きなだけ使える様にしてくれているし家政婦も雇っているから困る事はない。
柚葉の今置かれている状況に比べたら俺はまだまだ恵まれている環境なんだと気づかされた。
「……何で一哉君が泣くの?」
「え……?」
不意にそう柚葉に言われて俺は自分の頬に手を当てる。
手の平に感じる濡れた感触。
「……本当だ」
実感してしまったら涙は次から次へとボロボロと流れていく。
何で俺が泣くんだ。
泣きたいのは柚葉だ。
泣いてる場合じゃない、俺が柚葉を助けなきゃいけないのに。
そう思うのにやっぱり涙は止まってくれない。
止まれ、止まれよ!
俺は柚葉を助けなきゃ、俺が柚葉を守らなきゃ……。
「……ありがとう、一哉君」
情けなく泣き続ける俺に柚葉はそう言って俺の頬をハンカチで拭う。
何で、何でありがとうなんて……?
そんな俺の疑問に答える様に柚葉は緩やかに笑って言葉を続ける。
「……私の代わりに泣いてくれてるんでしょう?
この前と逆だね」
この前……、俺が柚葉と初めて沢山話したあの日……。
「あの時、一哉君本当はずっと泣きたかったんだろうなって思ったの。
だけど一哉君は泣けなかったんだろうなって思って。
だから泣かない一哉君の代わりに私が泣いた。
そして今は一哉君が私の代わりに泣いてくれてる。
あ、でも私もさっき泣いちゃったからちょっと違うのかなぁ」
笑ってそう言ってくれる柚葉をはじめて強いと思った。
俺なら父親を亡くしていきなり生活環境が変わって母親に暴力まで振るわれたらこんな風に笑えるだろうか。
柚葉みたいに笑って初対面の相手に優しく出来るだろうか、
自分より恵まれた環境にいる他人のために涙を流せるだろうか。
無理だ、俺は柚葉みたいに出来ない。
「……やっぱり、私達似てるね」
「俺と柚葉が……?」
「うん」
「……似てないよ、俺は自分の事ばかりで不満ばっかりで。
柚葉は俺より辛いのにいつも笑ってて優しくて……。
俺とは正反対だ、天使みたいだよ」
「天使?あはは!何それー」
そう言って笑う柚葉が愛しくて仕方がない。
「やっぱり似てるよ、私達。
だって私にとって一哉君はヒーローだもん」
「ヒーロー?俺が?」
「うん、ヒーローだよ。
……私ね、学校に友達いないんだ」
「え?柚葉が?」
驚いた、だって柚葉は俺と違って誰に対しても優しくていつも笑ってて、本当に天使みたいだから当然学校でも沢山の友達に囲まれているんだと当たり前の様に思ってた。
「私、いつも同じような服着てるでしょ?
実は2枚しかなくてそれを日替わりで着てるの。
それに給食費払えない時もあるしテレビも見れないしお小遣いなんてないからまわりから浮いちゃって話しかけても無視されたりしていつもひとりぼっちなんだ」
信じられない、まさか柚葉が誰にも相手にされずに無視されてひとりぼっちでいるなんて。
「そんな私にとって図書館はどんなテーマパークよりも楽しい場所だったの。
お金を払わなくても好きな本を自由に沢山読めて。
それだけで満足だった中、あの日一哉君に会ったの。
それから私の世界が変わったんだよ。
いつもひとりでいた私と一緒にいてくれて、私の代わりに泣いてもくれる
一哉君は私だけのヒーローだよ」
「……それは俺も同じだよ」
俺の言葉に不思議そうに俺を見る柚葉。
茶色がかった目はやっぱりキラキラとしていて長くて黒い真っ直ぐな髪は日に透けて艶々しく天使の様な輪っかが見える。
……ああ、やっぱり柚葉は天使なんだ。
俺だけの天使。
「柚葉は俺が初めて桐生一哉を演じずに本当の俺でいられる相手だよ。
柚葉に出会って毎日が変わったのは俺なんだ。
だから……」
だから、俺は柚葉を守るよ。
どんな奴でも柚葉を傷つけたり泣かせる奴は許さない。
俺がそいつらを排除する。
……例えそれが柚葉の母親だろうと。
「好きだよ、柚葉の事。
柚葉は俺が守るから」
俺の言葉に柚葉は驚いた顔をして、そして嬉しそうに笑って言った。
「ありがとう、一哉君。
やっぱり一哉君は私だけのヒーローだよ」
なぁ柚葉、俺は今も君の、君だけのヒーローだよ。
ずっとずっと、
君がいないこの世界でも、ずっと永遠に。
父親が2年前に亡くなった事、元々小さいながらも工場を経営していた父親が亡くなった事で工場は閉鎖、借金があったが母親が遺産を全て放棄したためその借金を背負う事はなかったがその代わりに家も財産も全て失った。
今は母親とふたりで狭く古いアパートで暮らしているが、父親が亡くなる前までは多少なりとも裕福で不自由のない生活をしていた母親は今の生活に耐えられずに柚葉に暴力を振るう事でストレスを発散する様になった。
……そんな事が本当に起こるのかとどこか現実感がなかった。
俺も親からは放ったらかしにされているけれど暴力とかはない。
もしかしたらネグレクトとかいうものに当てはまるのかも知れないけれど、金は好きなだけ使える様にしてくれているし家政婦も雇っているから困る事はない。
柚葉の今置かれている状況に比べたら俺はまだまだ恵まれている環境なんだと気づかされた。
「……何で一哉君が泣くの?」
「え……?」
不意にそう柚葉に言われて俺は自分の頬に手を当てる。
手の平に感じる濡れた感触。
「……本当だ」
実感してしまったら涙は次から次へとボロボロと流れていく。
何で俺が泣くんだ。
泣きたいのは柚葉だ。
泣いてる場合じゃない、俺が柚葉を助けなきゃいけないのに。
そう思うのにやっぱり涙は止まってくれない。
止まれ、止まれよ!
俺は柚葉を助けなきゃ、俺が柚葉を守らなきゃ……。
「……ありがとう、一哉君」
情けなく泣き続ける俺に柚葉はそう言って俺の頬をハンカチで拭う。
何で、何でありがとうなんて……?
そんな俺の疑問に答える様に柚葉は緩やかに笑って言葉を続ける。
「……私の代わりに泣いてくれてるんでしょう?
この前と逆だね」
この前……、俺が柚葉と初めて沢山話したあの日……。
「あの時、一哉君本当はずっと泣きたかったんだろうなって思ったの。
だけど一哉君は泣けなかったんだろうなって思って。
だから泣かない一哉君の代わりに私が泣いた。
そして今は一哉君が私の代わりに泣いてくれてる。
あ、でも私もさっき泣いちゃったからちょっと違うのかなぁ」
笑ってそう言ってくれる柚葉をはじめて強いと思った。
俺なら父親を亡くしていきなり生活環境が変わって母親に暴力まで振るわれたらこんな風に笑えるだろうか。
柚葉みたいに笑って初対面の相手に優しく出来るだろうか、
自分より恵まれた環境にいる他人のために涙を流せるだろうか。
無理だ、俺は柚葉みたいに出来ない。
「……やっぱり、私達似てるね」
「俺と柚葉が……?」
「うん」
「……似てないよ、俺は自分の事ばかりで不満ばっかりで。
柚葉は俺より辛いのにいつも笑ってて優しくて……。
俺とは正反対だ、天使みたいだよ」
「天使?あはは!何それー」
そう言って笑う柚葉が愛しくて仕方がない。
「やっぱり似てるよ、私達。
だって私にとって一哉君はヒーローだもん」
「ヒーロー?俺が?」
「うん、ヒーローだよ。
……私ね、学校に友達いないんだ」
「え?柚葉が?」
驚いた、だって柚葉は俺と違って誰に対しても優しくていつも笑ってて、本当に天使みたいだから当然学校でも沢山の友達に囲まれているんだと当たり前の様に思ってた。
「私、いつも同じような服着てるでしょ?
実は2枚しかなくてそれを日替わりで着てるの。
それに給食費払えない時もあるしテレビも見れないしお小遣いなんてないからまわりから浮いちゃって話しかけても無視されたりしていつもひとりぼっちなんだ」
信じられない、まさか柚葉が誰にも相手にされずに無視されてひとりぼっちでいるなんて。
「そんな私にとって図書館はどんなテーマパークよりも楽しい場所だったの。
お金を払わなくても好きな本を自由に沢山読めて。
それだけで満足だった中、あの日一哉君に会ったの。
それから私の世界が変わったんだよ。
いつもひとりでいた私と一緒にいてくれて、私の代わりに泣いてもくれる
一哉君は私だけのヒーローだよ」
「……それは俺も同じだよ」
俺の言葉に不思議そうに俺を見る柚葉。
茶色がかった目はやっぱりキラキラとしていて長くて黒い真っ直ぐな髪は日に透けて艶々しく天使の様な輪っかが見える。
……ああ、やっぱり柚葉は天使なんだ。
俺だけの天使。
「柚葉は俺が初めて桐生一哉を演じずに本当の俺でいられる相手だよ。
柚葉に出会って毎日が変わったのは俺なんだ。
だから……」
だから、俺は柚葉を守るよ。
どんな奴でも柚葉を傷つけたり泣かせる奴は許さない。
俺がそいつらを排除する。
……例えそれが柚葉の母親だろうと。
「好きだよ、柚葉の事。
柚葉は俺が守るから」
俺の言葉に柚葉は驚いた顔をして、そして嬉しそうに笑って言った。
「ありがとう、一哉君。
やっぱり一哉君は私だけのヒーローだよ」
なぁ柚葉、俺は今も君の、君だけのヒーローだよ。
ずっとずっと、
君がいないこの世界でも、ずっと永遠に。