愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

暗闇に支配される真夜中、いつものベッドに横になる俺の隣には柚葉が眠っている。

あれからすぐに帰ると言った柚葉を俺は必死で引き止めた。

今帰ったら母親が何をするか分からない、今度は髪の毛だけじゃ済まないかもしれない、だから今日は家に泊まってゆっくり休んで、これからの事はまた明日考えようとなるべく冷静に話した。

それでも迷惑をかけたくないとしきりに遠慮する柚葉を何とか説得してようやく家に泊まる事に首を縦に振った柚葉に俺はどれだけ安堵したか分からない。

それからは凄く楽しかった。
ふたりでご飯を作って食べて、一緒にテレビを見たりバルコニーから星を眺めたり。

柚葉は凄く楽しそうにしてくれた。
ご飯が温かくて美味しいね、とかテレビを見るの凄く久しぶりだと笑ったりバルコニーから見る星空にはしゃいだり。

お風呂の後に俺のパジャマを着てブカブカだとふたりで笑った。

一緒にベッドに横になる時、俺は少なからず緊張していたけれど柚葉はそれは無邪気に嬉しそうに、こんなにも大きくてふわふわで暖かいお布団嬉しい!と笑った。

おやすみ、そう言い合えた事が凄く嬉しかった。

気持ち良さそうに眠る柚葉の頬に思わず手を添える。

暖かい頬は柚葉が本当に俺の隣にいるんだと実感させてくれる。

肩の辺りで切り揃えた髪に触れるのはやっぱりまだ辛い。
髪が長くても短くても俺の柚葉に対する気持ちに変わりはない。

今でも柚葉が大好きだ。
だけど、柚葉は自分の長い髪が好きだったはずだ。

『お父さんが柚葉の髪はサラサラで綺麗だねってそう言って頭を撫でてくれるのが好きだったの。
だから私、髪は短くしないの』

そう、以前にポツリと少し恥ずかしそうに話してくれた柚葉を思い出す。

もう一度柚葉の頬に触れると柚葉は少しくすぐったそうに笑った。
起こしてしまったのかと焦ったけれど、胸がゆっくりと上下に動き寝息を立てる柚葉にホッとして俺はゆっくりと柚葉の頭を撫でた。

明日は一緒に朝ごはんを作ろう、そして今日渡せなかったプレゼントを渡そう。

その後は一緒に遊びにいこう。

お金がかかる事は柚葉は遠慮するだろうから、この間帰ってきた父親が気まぐれに置いていった遊園地のチケットで遊園地にいこうかな。

くたくたになるまで遊んで、明日もそのまま家に泊まればいい。

明日も明後日もそのまま、いつまでもずっとずっと、家にいればいい。
ずっとずっと、俺と一緒にいればいいんだ。


この時の俺はもう、柚葉をあの悪魔の元に帰す気なんて一欠片もなかった。
それが柚葉の幸せのためだって、本気でそう思っていた。

俺と一緒にいれば、柚葉は幸せだって。
俺が、俺にしか柚葉を幸せに出来ないって。

だけど、ねえ柚葉。
柚葉は違ったのかな。

柚葉の幸せは、俺と一緒にいたら叶えられないものだったのかな。

その答えはもう、聞けないけれど。
それでも俺はずっとずっと、君に聞くよ。
返事は返ってこなくても。
何度も、何度も。
俺が生きている限り。

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