愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る
⑳
力が抜けその場に崩れ落ちる様に座り込む。
目の前で広がる現実に気が狂いそうになりながらただ震えて泣く事しか出来ない俺は酷く滑稽だろう。
あれだけ望んだ世界が手に入ったというのに。
「俺、俺……、
俺が、
殺し、た……」
口に出した言葉は震えていた。
心臓は今までにない位にドクドクと大きく打ち続けて苦しい。
嗚咽交じりに息が上がる。
ああ、想像と現実はこんなにも違うのか。
生きる価値のない悪魔、そう思っていたのに目の前に横たわる『それ』はひとりの人間で。
ついさっきまで確かに生きていた人間が死んでいる。
殺したのは他の誰でもない、
俺だ。
「俺が、俺が……!」
狂いそうだ。
いっそ狂えたら楽かも知れない。
だけど、俺には狂う勇気もなくて。
「俺が殺した、俺が、殺した……」
馬鹿のひとつ覚えみたいに同じ言葉を繰り返す。
両腕で抱えた身体は冷たくガタガタと震え続ける。
吐きそうだ。
気持ち悪い。苦しい。
誰か、誰か、
助けて……。
「……違うよ、一哉君」
ふと耳に響いてきた言葉に目を向けると、柚葉が眉を下げて緩やかに笑っていた。
そっと俺の手を取る柚葉の手はやっぱり暖かい。
だけど、その手は微かに震えていた。
「……ごめんね、私が一哉君を巻き込んだ。
一哉君だけは巻き込んじゃいけなかったのに」
そう悲しそうに言う柚葉に、違う、柚葉のせいじゃない、そう言いたいのに言葉は出てこなくて。
「大丈夫だよ、一哉君は何もしていない、
今日一哉君はこの部屋に来ていない、私をアパートの前まで送ってくれてすぐに帰ったの」
……え?柚葉?
何を、言って……?
相変わらず言葉が出ない俺に柚葉は大丈夫だと繰り返しながら言葉を続ける。
「全部、私が何とかするから。
大丈夫、一哉君はいつも通りに過ごして。
だから今日はもう帰って」
「で、でも!
殺したのは、俺……!」
やっと出た言葉は情けない位に震えていて掠れていた。
そんな俺に柚葉は首を横に振ってやっぱり眉を下げて緩やかに笑って言った。
「一哉君、私、私ね、一哉君が思うようないい子じゃないの。
お母さんに殴られたり酷い事言われる度にどうして私だけこんな目に合わなきゃいけないのって痛くて苦しくて、お母さんの事憎んだりした」
「そんなの当たり前だ!」
「それだけじゃないの。
あの日、お母さんに殴られて髪を切られた時、
……お母さんに対して消えてしまえばいいって、そう思っちゃったの」
「柚葉……」
正直、驚きの気持ちはある。
まさか柚葉がそんな黒い感情を持っていたなんて。
だけど、それは当たり前の感情だ。
むしろずっとその感情を閉じ込めていたなんて、どれだけ辛かったか。
「だから、だからね、一哉君」
ぎゅっと俺の手を握りしめ、柚葉は真っ直ぐに俺を見る。
「全部、
全部私のせい、なんだよ」
そう言った柚葉は、眉を下げ緩やかに微笑んだ。
頬に一筋の涙を流しながら。
目の前で広がる現実に気が狂いそうになりながらただ震えて泣く事しか出来ない俺は酷く滑稽だろう。
あれだけ望んだ世界が手に入ったというのに。
「俺、俺……、
俺が、
殺し、た……」
口に出した言葉は震えていた。
心臓は今までにない位にドクドクと大きく打ち続けて苦しい。
嗚咽交じりに息が上がる。
ああ、想像と現実はこんなにも違うのか。
生きる価値のない悪魔、そう思っていたのに目の前に横たわる『それ』はひとりの人間で。
ついさっきまで確かに生きていた人間が死んでいる。
殺したのは他の誰でもない、
俺だ。
「俺が、俺が……!」
狂いそうだ。
いっそ狂えたら楽かも知れない。
だけど、俺には狂う勇気もなくて。
「俺が殺した、俺が、殺した……」
馬鹿のひとつ覚えみたいに同じ言葉を繰り返す。
両腕で抱えた身体は冷たくガタガタと震え続ける。
吐きそうだ。
気持ち悪い。苦しい。
誰か、誰か、
助けて……。
「……違うよ、一哉君」
ふと耳に響いてきた言葉に目を向けると、柚葉が眉を下げて緩やかに笑っていた。
そっと俺の手を取る柚葉の手はやっぱり暖かい。
だけど、その手は微かに震えていた。
「……ごめんね、私が一哉君を巻き込んだ。
一哉君だけは巻き込んじゃいけなかったのに」
そう悲しそうに言う柚葉に、違う、柚葉のせいじゃない、そう言いたいのに言葉は出てこなくて。
「大丈夫だよ、一哉君は何もしていない、
今日一哉君はこの部屋に来ていない、私をアパートの前まで送ってくれてすぐに帰ったの」
……え?柚葉?
何を、言って……?
相変わらず言葉が出ない俺に柚葉は大丈夫だと繰り返しながら言葉を続ける。
「全部、私が何とかするから。
大丈夫、一哉君はいつも通りに過ごして。
だから今日はもう帰って」
「で、でも!
殺したのは、俺……!」
やっと出た言葉は情けない位に震えていて掠れていた。
そんな俺に柚葉は首を横に振ってやっぱり眉を下げて緩やかに笑って言った。
「一哉君、私、私ね、一哉君が思うようないい子じゃないの。
お母さんに殴られたり酷い事言われる度にどうして私だけこんな目に合わなきゃいけないのって痛くて苦しくて、お母さんの事憎んだりした」
「そんなの当たり前だ!」
「それだけじゃないの。
あの日、お母さんに殴られて髪を切られた時、
……お母さんに対して消えてしまえばいいって、そう思っちゃったの」
「柚葉……」
正直、驚きの気持ちはある。
まさか柚葉がそんな黒い感情を持っていたなんて。
だけど、それは当たり前の感情だ。
むしろずっとその感情を閉じ込めていたなんて、どれだけ辛かったか。
「だから、だからね、一哉君」
ぎゅっと俺の手を握りしめ、柚葉は真っ直ぐに俺を見る。
「全部、
全部私のせい、なんだよ」
そう言った柚葉は、眉を下げ緩やかに微笑んだ。
頬に一筋の涙を流しながら。