愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

それからはどうやって家に帰ったかも覚えていない。

柚葉に大丈夫だから、
とにかく今日は帰って、
そう言われても俺は震えも涙も止まらずただひたすら柚葉を抱きしめていた。

それはまるで柚葉にすがるようであまりにも情けなく惨めな姿だったに違いない。

そんな俺に柚葉は全て終わったら必ず図書館にいくから、だから待ってて、そう言って小指を差し出した。

その指切りに、約束に少しの安堵を覚え俺は柚葉を残して部屋を出てしまった。

誰もいない家に入りすぐにシャワーを浴びる。

とにかく自分にまとわりつく物全てを洗い流したかった。
それはまるで自分の罪を消して隠そうとする罪人そのものだ。

洗っても洗っても身体にまとわりつく罪は消えない。
痛いくらいに擦り肌は赤く腫れ上がる。

……疲れた、もう今日は寝てしまおう、
そう思いベッドに倒れ込むけれど目を閉じるとあの時の光景がありありと甦る。

当然寝れやしない。

突き飛ばした感触、
流れる赤い血、
ピクリとも動かない身体、
全てがまるで今目の前で起こっているかの様な錯覚に吐き気が込み上げ、ドクドクと身体中の血管が脈を打っている様で苦しくなる。

望んだ事なのに、俺は布団に潜り込んで泣きながらひたすらに許しを乞うていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

止まる事を知らない涙と共に贖罪の言葉を口から何度も吐き出す。

……どれ位時間が経っただろうか、
枯れる事のない涙をただ流し続け壊れたラジオの様にただひたすらに同じ言葉を繰り返しながらふと柚葉の言葉を思い出した。

『全部、私が何とかするから』

そう言った柚葉。

何とかするから……?

どう、何とかするんだ?

だって人がひとり死んでいるんだ。
子どもひとりが何とか出来る様な事じゃない。
隠し通すのは無理だ。

……俺、何やってるんだ?

何でひとりでのこのこ帰ってきちゃったんだ?
殺したのは俺なのに。
柚葉は何もしていないのに。

柚葉は今頃動かなくなった、俺が殺した母親を前にひとりで何とかしようともがいているのか?
俺に迷惑をかけないように。
俺、何で、どうして……。

いかなきゃ、柚葉のところに、
そう思うのに身体は動いてくれない。

身体があの場所へいくのを拒否しているかの様にまるで自分の身体じゃないみたいに凄く重たく金縛りにあっているみたいだ。

それでも必死に身体を動かし何とかベッドから出て這いつくばる様にドアの前にいきドアノブに手をかける。

とたんに気持ち悪さが込み上げトイレに駆け込もうにも間に合わず床に吐いてしまった。

一度吐き出してしまえばそれがスイッチだったかの様に俺は吐き続け熱まで出てきた。

朦朧とする意識の中で俺はただ謝り続けた。

俺が殺したひとりの人間に、
そして残してきてしまった柚葉に。
何度も、何度も。

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