愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

チャイムが鳴ると同時に騒がしくなる教室。
担任が教室を出たら後は生徒だけの空間。
1日の授業を終え、解放された様に各々が行動する。
声をかけあって放課後の計画を立てる者もいたら、部活に直行する者、委員会にいく者、様々だ。

「じゃあなー、桐生!」

鞄を振り回しながらそう言ってくるのは木下だ。
野球部に所属している木下は放課後は毎日練習に励んでいる。

「ちょっと!危ないから鞄振り回すの止めなさい!」

そんな木下をまるで姉の様に嗜める川西さんに思わず笑ってしまう。

「ああ、またな。部活頑張れよ」

「おう!頑張るぜー!」

「だから!鞄を振り回すなって!」

姉というより最早母親に近いかも知れない。
べったりと一緒にいる訳じゃないのに、お互いにいい距離感で接して時にこうして注意も出来るふたりはとても良い時間を過ごしてきた幼なじみなんだろうと想像出来る。

「あのさ、桐生君…」

木下が教室を出た後、少し遠慮気味に川西さんが声をかけてきた。

「ん?何?」

「今日、冬野さんとは別行動なんだよね?」

お互い用事がない時は俺と柚葉はいつも一緒に帰るのがクラスでも暗黙の了解になっているからか、チラリと柚葉を見ながらそう聞いてきた。
釣られる様に俺も柚葉へ視線を送る。
柚葉はクラスの女子とちょうど教室から出る所だった。

「うん、今日は遊びにいくんだって」

「じゃあ、時間あるかな?
ちょっと相談、って言うか話したい事があって…」

少し言い淀む様な話し方の川西さんに違和感を覚える。
自分の芯がしっかりとある川西さんは、いつも話す相手を真っ直ぐに見てハキハキと話す。
それは聞いていてとても気持ちがいい。
そんな川西さんがこんな風に言い淀み、少し視線を反らせるなんて、何か大事な話があるのだろうと想像は出来た。

「いいよ、でもごめん、ちょっと待っててくれる?
委員会の仕事少しだけ頼まれてるんだ。
すぐ終わらせてくるから」

「そうなの?ごめんなさい、そんな忙しい時に。
明日でも大丈夫なんだけど…」

「いや、川西さんさえ良ければ今日で大丈夫だから」

「…うん、ごめんなさい」

「そんな謝らなくていいよ、じゃあすぐ戻るから」

本当に申し訳なさそうに謝ってくる川西さんに俺の方が何だか居たたまれない気持ちになり、とにかく早く用事を済ませようと急いで教室を出て委員会の教室へと向かう。

この時はてっきり木下の事で相談があるのだろうと思っていた。
長いつきあいの幼なじみのふたり、もしかしたら川西さんは幼なじみ以上の感情を木下に抱いているのかも知れない、それを木下と仲のいい俺に相談したいのかな、なんて高校生のありがちな相談だろうと思って何だか少し微笑ましい気持ちでさえいた。

だけど、そんな気持ちは再び教室に戻る時に打ち砕かれる事になる。

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