愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る
⑦
病院に着きまずは受付で川西さんの病室を教えてもらい、部屋へと向かう。
個室のドアをノックするも返事はない。
「木下がいるはずなんだけど……」
「木下君、昨日からずっといたんでしょ?
疲れもあるし一旦帰ってるんじゃないかな?」
「そうだね……」
念のためもう一度ノックするもやっぱり返事はない。
一呼吸おいて重たいドアを開ける。
その瞬間、身体にたくさんの管をつけられベッドに寝ている川西さんが目に飛び込んできた。
そんな川西さんの手を握る木下の姿も一緒に飛び込んでくる。
「木下……」
小さな声で木下を呼ぶ。
だけどやっぱり返事はない。
ただずっと川西さんを見つめている。
冷たく静かな空間にモニターの音や酸素を送る音だけが響く。
「木下君……!」
少し大きな声で柚葉が木下を呼ぶ。
ピクリと反応した木下はゆっくりとこちらに振り返る。
「桐生……、冬野さん……」
今にも倒れそうな程青白い顔をした木下に息を飲む。
いつも明るく元気でムードメーカの木下の姿は全くない。
「木下……、少し休んだ方が……」
何とか気丈に振る舞い木下に声をかけるが、木下は首を振りまた川西さんを見る。
「きのし……」
「桐生、どうしよ……」
俺の言葉を遮りそう言った木下の言葉は震えていた。
木下の隣に進み木下の顔を見る。
その目には涙が溢れていた。
「目、覚まさないんだよ……。
こいつ、いつも俺の事起こしにくるからさ、
俺、凛の寝てるとこなんて、見た事、ない……!」
そう言った木下の頬に涙が流れていく。
一度流れ出した涙は止まる事なく次々と溢れては流れていく。
「どうしよ……、なぁ桐生、
凛、このまま……、目、覚まさなかったら……、俺、俺……」
「大丈夫だ」
今度は俺が木下の言葉を遮りそう言い切る。
「絶対、目覚ますから。
だって川西さんはいつも自分が木下を毎日起こしてやらなきゃって、木下の勉強見てやらなきゃって、木下の試合だけは絶対見にいかなきゃって、
いつもいつも、そう言って笑ってたじゃないか……!」
言いながら鼻の奥がツンと痛くなるのを感じた。
だけど俺が泣く訳にはいかない。
だって木下の気持ち全てを俺はきっと分かっていない。
大切な人がいなくなるかも知れない恐怖なんて、どれだけ分かろうとしても理解しようとしても、共感しようとしても、
現実に大切な人がこの世からいなくなるかも知れない恐怖を味わっている人にしかきっと分からないから。
だから俺に出来る事は木下の気持ちを吐き出せる場所を作る事、
泣きたいだけ泣ける場所を作る事、
大丈夫だって、
絶対に目を覚ますって、
そう言い続ける事。
そこに確かな根拠なんてなくても、
ただ一緒に川西さんが目を覚ますのを信じて待つ事だ。
「桐生……」
「大丈夫、絶対に大丈夫だから。
だから、川西さんが目を覚ました時に笑って迎えてあげられる様に木下も少し休んだ方がいい。
じゃなきゃまた川西さんに怒られるだろ?
いつも万全の体調で野球出来る様にしっかり休んで体調管理はする様にって、川西さんいつも言ってたじゃん」
「そうだよ、顔色悪いし一度帰ってゆっくり休んだ方がいいよ」
「……ありがと、桐生、冬野さん。
でもどうせ帰っても眠れないからさ」
「……木下」
「でも桐生の言う通りだよな、俺がこんなだと凛に怒られるわ、ちゃんと寝ろっ!ってさ」
まだ目には涙を滲ませながらも少しだけ笑ってくれた木下に安堵する。
それからすぐに看護師が来たため、俺と柚葉は病院を後にする。
本当は木下に川西さんが最近何かに悩んでなかったか、
何か俺に話したい事があるとか聞いていないか、色々聞きたい事はあったけれど今それを聞くのは違うと思った。
今1番大事なのは川西さんが目覚めるのを信じる事、
そして木下に寄り添う事だと思うから。
頑張れ、川西さん。
頑張れ、木下。
そう強く思いながら柚葉の手を強く握った。
個室のドアをノックするも返事はない。
「木下がいるはずなんだけど……」
「木下君、昨日からずっといたんでしょ?
疲れもあるし一旦帰ってるんじゃないかな?」
「そうだね……」
念のためもう一度ノックするもやっぱり返事はない。
一呼吸おいて重たいドアを開ける。
その瞬間、身体にたくさんの管をつけられベッドに寝ている川西さんが目に飛び込んできた。
そんな川西さんの手を握る木下の姿も一緒に飛び込んでくる。
「木下……」
小さな声で木下を呼ぶ。
だけどやっぱり返事はない。
ただずっと川西さんを見つめている。
冷たく静かな空間にモニターの音や酸素を送る音だけが響く。
「木下君……!」
少し大きな声で柚葉が木下を呼ぶ。
ピクリと反応した木下はゆっくりとこちらに振り返る。
「桐生……、冬野さん……」
今にも倒れそうな程青白い顔をした木下に息を飲む。
いつも明るく元気でムードメーカの木下の姿は全くない。
「木下……、少し休んだ方が……」
何とか気丈に振る舞い木下に声をかけるが、木下は首を振りまた川西さんを見る。
「きのし……」
「桐生、どうしよ……」
俺の言葉を遮りそう言った木下の言葉は震えていた。
木下の隣に進み木下の顔を見る。
その目には涙が溢れていた。
「目、覚まさないんだよ……。
こいつ、いつも俺の事起こしにくるからさ、
俺、凛の寝てるとこなんて、見た事、ない……!」
そう言った木下の頬に涙が流れていく。
一度流れ出した涙は止まる事なく次々と溢れては流れていく。
「どうしよ……、なぁ桐生、
凛、このまま……、目、覚まさなかったら……、俺、俺……」
「大丈夫だ」
今度は俺が木下の言葉を遮りそう言い切る。
「絶対、目覚ますから。
だって川西さんはいつも自分が木下を毎日起こしてやらなきゃって、木下の勉強見てやらなきゃって、木下の試合だけは絶対見にいかなきゃって、
いつもいつも、そう言って笑ってたじゃないか……!」
言いながら鼻の奥がツンと痛くなるのを感じた。
だけど俺が泣く訳にはいかない。
だって木下の気持ち全てを俺はきっと分かっていない。
大切な人がいなくなるかも知れない恐怖なんて、どれだけ分かろうとしても理解しようとしても、共感しようとしても、
現実に大切な人がこの世からいなくなるかも知れない恐怖を味わっている人にしかきっと分からないから。
だから俺に出来る事は木下の気持ちを吐き出せる場所を作る事、
泣きたいだけ泣ける場所を作る事、
大丈夫だって、
絶対に目を覚ますって、
そう言い続ける事。
そこに確かな根拠なんてなくても、
ただ一緒に川西さんが目を覚ますのを信じて待つ事だ。
「桐生……」
「大丈夫、絶対に大丈夫だから。
だから、川西さんが目を覚ました時に笑って迎えてあげられる様に木下も少し休んだ方がいい。
じゃなきゃまた川西さんに怒られるだろ?
いつも万全の体調で野球出来る様にしっかり休んで体調管理はする様にって、川西さんいつも言ってたじゃん」
「そうだよ、顔色悪いし一度帰ってゆっくり休んだ方がいいよ」
「……ありがと、桐生、冬野さん。
でもどうせ帰っても眠れないからさ」
「……木下」
「でも桐生の言う通りだよな、俺がこんなだと凛に怒られるわ、ちゃんと寝ろっ!ってさ」
まだ目には涙を滲ませながらも少しだけ笑ってくれた木下に安堵する。
それからすぐに看護師が来たため、俺と柚葉は病院を後にする。
本当は木下に川西さんが最近何かに悩んでなかったか、
何か俺に話したい事があるとか聞いていないか、色々聞きたい事はあったけれど今それを聞くのは違うと思った。
今1番大事なのは川西さんが目覚めるのを信じる事、
そして木下に寄り添う事だと思うから。
頑張れ、川西さん。
頑張れ、木下。
そう強く思いながら柚葉の手を強く握った。