愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

川西さんの事件から2週間が過ぎた。
依然として川西さんは眠り続けたまま、目を覚まさない。
木下は1週間過ぎた辺りから学校へ登校して来る様にはなったがやっぱり心ここにあらずという感じでいつもの元気はない。
それでも心配かけまいと無理して笑顔を作る木下に胸が痛んだ。

川西さんが俺に伝えたかった事、
それは川西さんが目覚めるまで、川西さんの口から聞くまでは分からない。
この2週間、それとなく川西さんのまわりを探ってみたが、川西さんを恨んだりする人はやっぱりいなかったし川西さんが何かに悩んでたりといった事を知る人もいなかった。

「はぁ……」

学校からの帰り道、思わずこぼれたため息に自分が情けなくなる。
今も目覚める事なく眠り続ける川西さん、
そんな川西さんのそばに出来る限り付き添いひたすらに目覚める事を願う木下。
大切な友人に何も出来ない自分が情けなくて悔しくて惨めだ。

「やあ、桐生君」

そんな自己嫌悪に陥る中不意に後ろから名前を呼ばれ振り向くとそこにはひとりの女性が立っていた。
一瞬誰だか分からず身構えた。
だけど、すぐに記憶から呼び起こされた。
川西さんの事件の時に俺に事情を聞き、名刺を渡してきた刑事だと。

「……お久しぶりです、あの時の刑事さんですよね、
確か峰島さん、でしたっけ?」

「そう、峰島です。
覚えてくれていたんだね」

そう言って一歩近づいてきた刑事に俺は思わず後ずさる。

「ああ、そんな身構えなくていいよ。
楽にして。
実はもう一度現場を見直そうと思って学校へいった帰りなんだ」

「そうだったんですね、何か新しく分かった事とかありましたか?」

なるべく冷静さを保ちそう聞くも、指先が冷たくなるのを感じた。
普通の高校生でいるけれど、
俺は本当は人殺しだから。

あの日からずっと、
警察官を見る度に俺を捕まえに来たのかと恐ろしくてたまらない。

「残念ながら学校では新しく分かった事はないんだ。
だけど、川西さんの中学時代の友人から気になる事を聞いてね」

「気になる事……?」

何か含む様な言い方の刑事に俺は言い様のない不安を感じる。

「桐生君、君が川西さんと出会ったのはいつかな?」

「え……?」

予想もしなかった質問に思わず言葉が詰まる。
川西さんと出会ったのはいつか、なんてそんなの決まってる。

「高校に入学してからですけど……」

「うん、そうだよね。
だけど、本当はもっと前に会っていたら?」

もっと前に……?
意味が分からない。
川西さんと出会ったのは高校に入学してからだ。
たまたま同じクラスでたまたま席が隣で、
そしてたまたま仲が良くなった木下の幼なじみだった、それだけのはず……。

「君は高校に入学する前に川西さんに会った事があるんだ」

はっきりとそう言い切る刑事に俺は何も言えずにただ刑事を見る事しか出来ない。

「そう、君が冬野柚葉と出会う前にね」

!!!?

柚葉の名前が刑事の口から出てきた瞬間、
心臓がドクリと跳ねた。
背中には冷たい汗が流れる。

「今、時間あるかな?
少し話したいんだ」

そう言った刑事の顔は警戒心を解くかの様に笑っていた。
だけど、俺にはその笑顔が俺を迎えにきた死神の様に見えて恐ろしくて堪らなかった。

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