愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

「じゃあなー、桐生!」

「ああ、また明日!」

笑顔でそうクラスメイトと交わしながら学校の校門を出る。

この時点で今日の任務は半分終了だ。
授業も真面目に受けた、クラスメイトとも笑い合いながら過ごした、掃除の時間に少しクラスメイトとふざけたりして先生に軽く怒られた。

ありふれた小学生男子の学校での過ごし方だ。

今日は塾はない、帰って宿題をして夜は家政婦が作ったご飯を食べてお風呂に入って寝るだけ。

俺の代わり映えのしない毎日と同じ様に代わり映えのしない風景、街並みを横目に歩く。

ふと思う、俺もこの風景と同じ様にこれからも何も変わらないまま、大人になるのだろうか。

見た目だけ大人になって、通う場所が学校から会社に変わるだけ。
接する相手がクラスメイトから同僚へ、先生から上司に。

それだけ変わって、後は代わり映えのしない、何にも変わらない毎日。
今と同じ様にこの道を同じ事を考えながら歩く。

そう考えたらゾッとした。

そんな思いを少しでも消したかったのだろうか、俺はこの日いつもと違う行動に出る。

とは言ってもいつもの登下校の道を変えただけ。
遠回りになるから普段は通る事もない道。

だって遠回りなんてそんな非効率で時間を無駄にする行為なんて馬鹿げてる。

そんな風に思っていた癖にひとつ違う道に入るだけでドキドキした。

俺は今、初めての冒険に出てる、そんな高揚感もあった。

ランドセルの肩紐をぎゅっと握りながら真っ直ぐに歩く。

朝は鬱陶しいだけだった生温い風も額に滲む汗も何だか誇らしく心地良い。

俺にもまだこんな子どもらしさは残っていたのだと分かり少し嬉しくて、少し呆れる。

普段とは違う風景、街並み。行き交う人達まで全然違う様に見える。

そのまま歩いていると不意にひとつの建物が目に入った。

良く言えばレトロ、悪く言えば老朽化の目立つ古い建物。
何かに導かれる様にその建物へと足を進める。

「……図書館」

そうポツリと声に出ていた。

本を読むのは好きだ。
だけどわざわざ図書館にいかなくても気になる本があれば家政婦に言えば買ってきてもらえたから学校の図書室さえもあまり足を踏み入れる事はなかった。

……せっかくいつもと違う道を来たんだ、今日位いつもと違う行動をしてみよう、
そう思ってそのまま図書館の中へと続く道を進んでいった。

一呼吸おいてドアを開ける。

途端に目の前に広がる広く静かな部屋。
中にはたくさんの本棚にたくさん詰め込まれた本、貸し出しカウンターにはひとりの大人、たくさんあるテーブルと椅子には人がまばらにいる。

……入ったはいいけどどうしようか。
別に今読みたい本がある訳じゃない。
だけどここは図書館だ、ここにいる人達は何か読みたい本があるからここにいる。

途端に俺は場違いな場所に来たんじゃないかと恥ずかしくなる。
さっきまでの高揚感は消え去りその場に立ち尽くしてしまう。

……どうしよう、帰ろうかな、
何て思った瞬間後ろから肩を叩かれた。
瞬間心臓が大きく飛び跳ねて俺は反射的に後ろを振り向く。
そこには驚いた顔をしたひとりの女の子が立っていた。

「あ、その……、驚かせてごめんなさい。
だけどここ、出入口だから……」

申し訳なさそうにそう言う女の子の言葉に俺は出入口のドアを塞ぐように突っ立っていた事に今更気づく。

「……あ、ご、ごめん!」

そう言って急いで横にずれる。
だけどその声は少し大きかったのか、静かな空間に酷く響き渡った。

まわりの視線が俺に集まった、様な気がした。
恥ずかしい、そう思った俺はそのままドアを出ようとした。
だけど、そんな俺に女の子が言った、

「ここ、初めてなの?」

「……え?」

まさかそんな事聞かれるなんて思ってなくて俺はドアに手をかけたまま女の子を見る。


これが、俺と冬野柚葉の出会いだった。

そして、この日から今まで代わり映えのしない、何にも変わらない毎日は大きく変わる様になる。
それはモノクロの世界に沢山の色がつくように。
そしてこの日から、俺と柚葉の死へのカウントダウンも始まった。
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