愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る
④
「初めてなら分からないよね」
相変わらず突っ立っている事しか出来ない俺に彼女はそう言って俺の手をとる。
「え、ちょっ…!」
初めて女の子に手を握られてどうしていいか分からず上擦った声が口から出る。
「どんな本が好き?」
そんな俺の心情なんてお構い無しにそう聞いてくる彼女。
「えっと……、ミステリーとか……」
「じゃあこっちだよ」
そう言うと慣れたように広い空間をスタスタと歩いていく。
俺の手を握ったままで。
「この辺りにミステリー関連の本が揃ってるよ」
彼女の言葉に目の前の本棚を見ると確かにそこには数々のミステリー本が並んでいた。
「読みたい本があったら適当に空いてる席で読んだらいいよ。
貸し出しならあっちのカウンターに本を持っていったら貸し出しの手続きしてくれるから」
ご丁寧にカウンターを指差しながらそう言って彼女は緩やかな笑みを顔に浮かべて
「じゃあね」
とひと言残して去っていった。
何故か俺はそのまま彼女の姿を目で追っていた。
彼女はカウンターに一冊の本を返却し、その後近くの本棚から一冊の本を手に取り近くの席に座り本を読み始めた。
そんな彼女を真似る様に俺も適当に目に入った本を一冊手に取り、彼女の座る斜め前の席に座り本を読み始めた。
だけど、本の内容なんてちっとも頭に入らなかった。
本の内容より斜め前に座る彼女の方が気になった。
真剣な表情で本を読む彼女は俺の存在になんて全く気づいていない。
目は文字を追うように上下に動き、ゆっくりとページを捲る指が動く。
静かな空間にページを捲る音が心地良い。
気づくと俺も彼女の様にゆっくりと本の世界に入り始めていた。
……どれ位時間が経ったのだろうか、ふと視線を感じ本から顔を上げると斜め前に座る彼女と目が合った。
その瞬間、ドクンと心臓が大きく動いた。
「面白い?それ」
そんな俺の心情になんてやっぱりまるで気づいていない彼女は俺の読んでいる本を指差しそう聞いてきた。
「あ、うん。
トリックとかはそんな複雑なものじゃないけど人間関係とか動機とかがちょっと惹かれる感じで……」
「へー、面白そうだけど私にはちょっと難しそうだなー」
そう言って小さく笑う彼女に俺の心臓も小さく、だけど速く音を打ち続ける。
「ところでもうすぐ18時だよ、帰らなくて大丈夫?」
相変わらずご丁寧に壁に掛けられた時計を指差しながらそう言う彼女に俺も彼女の指差す方を見る。
時計の針は17時50分を指していた。
別に寄り道しようが家政婦は何も言わない。
契約書に俺の帰宅時間を守らせるだとか寄り道をしない様にとかそんな項目はないから。
「俺は別に大丈夫だけど。
えっと、君は……?」
俺の言葉に少し驚いた顔をしたと思ったら次の瞬間にはヘラッと笑って席を立つ。
「私も別に大丈夫。
でもここ小学生は18時までしかいちゃいけないんだ。
だからどっちにしろもう出なきゃなんだよね」
「そうなんだ」
彼女に倣うように俺も席を立つ。
「借りていくの?それ」
俺の持つ本を指差しながらそう聞く彼女。
……別に借りてまで読みたい程面白い訳じゃなかった。
だけど、今日これを借りたらここに返しにこなきゃいけない。
またここに来る理由が出来る。
「……うん、借りようかな」
そう俺が言った瞬間、彼女はパッと効果音が付くようにキラキラと顔を輝かせた、……気がした。
「じゃあまた返しにくるよね、そしたらまた会えるね!」
そう言って笑う彼女に、俺の心臓はまたドクンと大きな音を立てた。
「私もこれ借りるから、いこ!」
そう言って今度は俺に手を差し出す。
「……あ、うん」
少し戸惑う気持ちはあったけど、俺はゆっくりと差し出された手を握る。
そのまま俺の手を引いてカウンターへと歩く彼女の手は、暖かかった。
俺はこの時の柚葉の手の暖かさを死ぬまで忘れない。
相変わらず突っ立っている事しか出来ない俺に彼女はそう言って俺の手をとる。
「え、ちょっ…!」
初めて女の子に手を握られてどうしていいか分からず上擦った声が口から出る。
「どんな本が好き?」
そんな俺の心情なんてお構い無しにそう聞いてくる彼女。
「えっと……、ミステリーとか……」
「じゃあこっちだよ」
そう言うと慣れたように広い空間をスタスタと歩いていく。
俺の手を握ったままで。
「この辺りにミステリー関連の本が揃ってるよ」
彼女の言葉に目の前の本棚を見ると確かにそこには数々のミステリー本が並んでいた。
「読みたい本があったら適当に空いてる席で読んだらいいよ。
貸し出しならあっちのカウンターに本を持っていったら貸し出しの手続きしてくれるから」
ご丁寧にカウンターを指差しながらそう言って彼女は緩やかな笑みを顔に浮かべて
「じゃあね」
とひと言残して去っていった。
何故か俺はそのまま彼女の姿を目で追っていた。
彼女はカウンターに一冊の本を返却し、その後近くの本棚から一冊の本を手に取り近くの席に座り本を読み始めた。
そんな彼女を真似る様に俺も適当に目に入った本を一冊手に取り、彼女の座る斜め前の席に座り本を読み始めた。
だけど、本の内容なんてちっとも頭に入らなかった。
本の内容より斜め前に座る彼女の方が気になった。
真剣な表情で本を読む彼女は俺の存在になんて全く気づいていない。
目は文字を追うように上下に動き、ゆっくりとページを捲る指が動く。
静かな空間にページを捲る音が心地良い。
気づくと俺も彼女の様にゆっくりと本の世界に入り始めていた。
……どれ位時間が経ったのだろうか、ふと視線を感じ本から顔を上げると斜め前に座る彼女と目が合った。
その瞬間、ドクンと心臓が大きく動いた。
「面白い?それ」
そんな俺の心情になんてやっぱりまるで気づいていない彼女は俺の読んでいる本を指差しそう聞いてきた。
「あ、うん。
トリックとかはそんな複雑なものじゃないけど人間関係とか動機とかがちょっと惹かれる感じで……」
「へー、面白そうだけど私にはちょっと難しそうだなー」
そう言って小さく笑う彼女に俺の心臓も小さく、だけど速く音を打ち続ける。
「ところでもうすぐ18時だよ、帰らなくて大丈夫?」
相変わらずご丁寧に壁に掛けられた時計を指差しながらそう言う彼女に俺も彼女の指差す方を見る。
時計の針は17時50分を指していた。
別に寄り道しようが家政婦は何も言わない。
契約書に俺の帰宅時間を守らせるだとか寄り道をしない様にとかそんな項目はないから。
「俺は別に大丈夫だけど。
えっと、君は……?」
俺の言葉に少し驚いた顔をしたと思ったら次の瞬間にはヘラッと笑って席を立つ。
「私も別に大丈夫。
でもここ小学生は18時までしかいちゃいけないんだ。
だからどっちにしろもう出なきゃなんだよね」
「そうなんだ」
彼女に倣うように俺も席を立つ。
「借りていくの?それ」
俺の持つ本を指差しながらそう聞く彼女。
……別に借りてまで読みたい程面白い訳じゃなかった。
だけど、今日これを借りたらここに返しにこなきゃいけない。
またここに来る理由が出来る。
「……うん、借りようかな」
そう俺が言った瞬間、彼女はパッと効果音が付くようにキラキラと顔を輝かせた、……気がした。
「じゃあまた返しにくるよね、そしたらまた会えるね!」
そう言って笑う彼女に、俺の心臓はまたドクンと大きな音を立てた。
「私もこれ借りるから、いこ!」
そう言って今度は俺に手を差し出す。
「……あ、うん」
少し戸惑う気持ちはあったけど、俺はゆっくりと差し出された手を握る。
そのまま俺の手を引いてカウンターへと歩く彼女の手は、暖かかった。
俺はこの時の柚葉の手の暖かさを死ぬまで忘れない。