愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

静かな空間で僕達はお互い向き合う形で席に座り本を読む。
普段絶対読まない様な本のページをめくると、
そこには今まで想像した事のない世界が広がっていた。
子ども騙し、そんな感想をクラスメイトは言うだろう、
だけど、僕には凄く面白い物だった。
夢中でページをめくり、あっという間に1冊読み終わる。

本を閉じ前を見ると女の子はまだ読んでいる途中だった。
ページをめくりながら、驚いた顔をしたかと思えばホッと笑ったり、また恐怖に顔を引きつらせたりと本当にくるくると表情が変わる。
本に夢中になって僕が見ている事にも気づかない。
だから、僕は黙って女の子の顔をただ見つめていた。
その時間は、
何だかとても暖かく心地良かった。

「ふー、怖かった……」

パタンと本を閉じ、大きく息を吐いてそう言って顔を上げた女の子と目が合う。

「あ、君も読み終わった?」

「うん」

とっくに読み終わっていたけど、ずっと見つめていた事がバレるのも恥ずかしいから、
僕も今読み終わったかの様に話を合わせる。

「どうだった?
怖いでしょう?」

「うん、凄く面白かったよ。
七不思議とかはじめて知ったよ、これ、このシーンのピアノがさ……」

「わー!駄目!
私そのシーン怖くて今でもひとりで音楽室入れないの!」

そう言って耳を両手で塞ぎ目を閉じる女の子。
そんなしぐさや表情を見て胸がドキっと音を立てたのが分かった。

「ゴホンッ!」

そんな中僕達に向けられた咳払い。
そうだ、ここは図書館だ。
みんなが静かに本を読むための空間。
そんな当たり前の事に気づき恥ずかしさと申し訳なさで、僕達は小さな声でごめんなさいと周りに謝り慌てて読んだ本を返却した。
そしてまだ読んでいないシリーズを僕は2冊、女の子は1冊借りて図書館を出る。

外に出ると辺りは夕焼けに包まれていた。

「綺麗な夕焼けだねー!」

隣に立つ女の子はそう言って真っ直ぐに赤く染まる夕焼けを見ている。
だけど僕は女の子を真っ直ぐに見ていた。

長く艷やかな黒髪がサラサラと風に靡いている。
白く陶器の様な肌は夕焼けに照らされほんのりと赤く染まる。

……何だろう、
何だか、胸がドキドキする。
痛い位に僕の胸を締め付ける。

「あ、ねえ、君の名前は?」

茶色がかった目で僕を真っ直ぐに見てそう聞いてきた女の子は、
にっこりと笑っていて、
僕ははじめて、
女の子を可愛いと、思ったんだ。

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