愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

赤く染まる夕焼けを背に茶色がかった大きな目が僕を捕らえて離さない。

「あ、えっと、
桐生、一仁……」

情けない程にたどたどしく、それだけ何とか答えると、女の子はまたにっこりと笑って口を開く。

「一仁君、一仁君……、
じゃあ、かず君だね!」

「かず君……?」

あだ名、というものだろうか。
はじめて呼ばれたその呼び方に僕はどう反応していいか分からない。
だけど目の前では当たり前だとでも言う様に笑う女の子。

「一仁君だから、かず君!」

自信満々にそう言い切る女の子に僕もつられるように笑う。

「うん、そう呼んでもらえたら嬉しいな」

「でしょー?」

そう、本当に楽しそうに、嬉しそうに笑う女の子が眩しく見えるのは夕焼けのせいだろうか。

「ねぇ、君の名前は?」

名前も知らない女の子が僕の名前を呼んでくれている。
僕も、この女の子の名前を知りたい、そして名前で呼びたい。
そう、心から思ったら自然とその言葉が口から出ていた。

「あ、そうだよね!
私はね、二宮梓葉!
梓葉って呼んでくれたら嬉しい!」

僕の言葉から真似る様にそう言って少し照れくさそうに笑う女の子。

「えっと、呼び捨てでいいの?」

女の子の事を名前で呼んだ事なんてない。
呼び捨てなんて一度もない。
名前で呼び合うなんて、それこそ特別な相手だけだと思っていた。

「かず君だからいいよ!」

そう言って恥ずかしそうに赤く染まる頬を両手で押さえる女の子、梓葉に、
僕の胸は益々音を大きく立てていく。

「……うん、梓葉、だね」 

初めて女の子を名前で呼んだ。
何だかくすぐったさを感じる。

「うん!
私達、今日からお友達だね!よろしくね!」

無邪気に笑って手を差し出してくる梓葉。
その小さくて細い、白い手を少し戸惑いながらも僕は握る。

「うん、よろしく、梓葉」

重なり合った手のひらは暖かくて、
僕は何だか泣きたくなった。
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