愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

桐生コンツェルンの最上階にある社長室、
この部屋が私の物になってもう10年は経つ。
この部屋に一哉が入る事はまだ何十年も先だと思っていた。

だが、一哉は今私の目の前で私の話を聞いている。 
私に良く似た目で、私を真っ直ぐに見据えながら。

「……告白して、つきあい始めたんですよね? 
なのに何故、彼女を……」

そう聞いてくる一哉の目は疑問と怒りが混ざりあった目をしている。

「……つきあい始めて、しばらくは本当に幸せだった。
彼女、梓葉も本当に幸せだといつもそう言って笑ってくれていた。
だが、
……私達が高校2年に上がったばかりの頃、桐生の人間に梓葉とのつきあいが知られてしまった」

そう、ずっと隠し通していた梓葉の存在が桐生の人間に知られてしまった時、
私達の運命は変わった。

「父…、お前にとっての祖父が梓葉の存在を知ったらどういう行動を起こすかは、お前なら分かるだろう?」

私の問いかけに一哉は少し顔を歪める。

「……当然、別れさせようとしたでしょうね。
ありとあらゆる手を使って」

「ああ、その通りだ。
かなり抵抗したがまだ高校生の私には成すすべもなかった」

「……どんな手段を使って別れさせようとしたのですか?」

「梓葉の父親が経営する工場への融資をストップする様に銀行等の融資先全てに圧力をかけた。
それだけじゃない、取引先も全て奪おうとした。
そんな事になったら梓葉の家庭がどうなるのかは簡単に想像がつく。
梓葉を苦しめる訳にはいかない。
……私は梓葉に別れを告げたよ」

……そう、その時はそれが1番だと思っていた。
梓葉が幸せなら、
梓葉が向日葵の様に笑っていてくれるなら、
そのためなら、
私は身を引く。

それが1番梓葉のためになると、
梓葉が幸せになれるのだと。

だけど、
それは間違いだと気づくのに、

10年以上もかかってしまった。

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