愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る
⑪
秋から冬に移り変わる中、
私は相変わらず仕事に精を出していた。
冷え切った夫婦仲も今の私にはどうでもいい。
跡継ぎである一哉には優秀な家庭教師をつけている。
詩織は外で遊び回っている様だが好きにしたらいい
今の私は桐生コンツェルンを守るだけに至らず今以上に
大きく成長させ、世界でも渡り合える企業にする事だけに尽力すればいい。
そう思っていた。
そんな毎日が覆ったのは、
寒さが身に沁みてくる冬のある日だった。
【冬野梓葉が入院している】
そんな報せが届いた。
梓葉が幸せならそれで良かった。
だけどもしもその幸せが崩れる様な事があればすぐに報せる様に秘書の高橋に頼んでいた。
高橋は私が唯一信頼している人間だ。
梓葉の事も高橋にだけは話していたし相談もしていた。
子どもの頃は兄の様に私の側にいてくれて、
大人になってからは秘書として、ずっとずっと私を支えてくれている。
急いで高橋から教えてもらった病院へ向かう。
高橋が調べたところ、何故入院しているのかは分からなかったが、ここ数ヶ月梓葉はずっと元気がなく家に閉じこもりがちだったらしい。
病気なのか……?
だとしたら助かるのか?
心臓が痛い。
お願いだ、梓葉。
どうか、
どうか無事でいてくれ……!
祈る思いを抱え病院に着き梓葉のいる部屋を受付で聞き出す。
教えられた部屋の前に来てふと立ち止まる。
……私は今更どんな顔をして梓葉に会うというのだ?
私は、
梓葉に酷い言葉を投げつけ別れたというのに。
急に怖くなった。
梓葉は、私に会いたくないだろう。
あんな酷い言葉を投げつけた男が今更見舞いにきたって迷惑なだけだろう。
……帰ろう、
高橋に詳しく調べてもらってもし治療に多額の費用が掛かるならその時は梓葉に私だとバレない様に医者に金を渡せばいい。
私には、梓葉に会う権利などない……
「かず、君……?」
!!!
帰ろうとドアから手を離した瞬間、後ろから耳に響いた声、
私を【かず君】と呼ぶのはこの世にひとりだけ、
そして何より、
私がこの声を、
梓葉の声を聞き間違えるはずがない。
ゆっくりと後ろを振り返る。
そこに立つ梓葉の姿を見た瞬間、身体が動いた。
「梓葉……!」
気がつくと梓葉を抱きしめていた。
腕に、身体に確かに感じる梓葉の体温に安堵感を感じた。
だけど、それと同時に痩せこけた梓葉の身体に、
梓葉の腕から伸びる点滴の管に、
心臓が冷たくなったのも、
感じた。
「かず君……
かず君……!」
私の名前を呼びながら背中に回した腕に力を入れる梓葉。
だけどその力はあまりにも弱くて儚くて。
それでも必死に私を抱きしめる梓葉が愛しくて愛しくて、
私はただ梓葉を抱きしめた。
少し力を入れたら折れてしまいそうな程に痩せて小さく華奢な梓葉に胸が苦しくなるのを感じながら、
梓葉の変わらない温もりを感じられるのが嬉しくて、
梓葉が自分の腕の中にいる確かな暖かさが嬉しくて、
梓葉が、確かに存在しているのが嬉しくて、
ただただ、梓葉を抱きしめた。
私は相変わらず仕事に精を出していた。
冷え切った夫婦仲も今の私にはどうでもいい。
跡継ぎである一哉には優秀な家庭教師をつけている。
詩織は外で遊び回っている様だが好きにしたらいい
今の私は桐生コンツェルンを守るだけに至らず今以上に
大きく成長させ、世界でも渡り合える企業にする事だけに尽力すればいい。
そう思っていた。
そんな毎日が覆ったのは、
寒さが身に沁みてくる冬のある日だった。
【冬野梓葉が入院している】
そんな報せが届いた。
梓葉が幸せならそれで良かった。
だけどもしもその幸せが崩れる様な事があればすぐに報せる様に秘書の高橋に頼んでいた。
高橋は私が唯一信頼している人間だ。
梓葉の事も高橋にだけは話していたし相談もしていた。
子どもの頃は兄の様に私の側にいてくれて、
大人になってからは秘書として、ずっとずっと私を支えてくれている。
急いで高橋から教えてもらった病院へ向かう。
高橋が調べたところ、何故入院しているのかは分からなかったが、ここ数ヶ月梓葉はずっと元気がなく家に閉じこもりがちだったらしい。
病気なのか……?
だとしたら助かるのか?
心臓が痛い。
お願いだ、梓葉。
どうか、
どうか無事でいてくれ……!
祈る思いを抱え病院に着き梓葉のいる部屋を受付で聞き出す。
教えられた部屋の前に来てふと立ち止まる。
……私は今更どんな顔をして梓葉に会うというのだ?
私は、
梓葉に酷い言葉を投げつけ別れたというのに。
急に怖くなった。
梓葉は、私に会いたくないだろう。
あんな酷い言葉を投げつけた男が今更見舞いにきたって迷惑なだけだろう。
……帰ろう、
高橋に詳しく調べてもらってもし治療に多額の費用が掛かるならその時は梓葉に私だとバレない様に医者に金を渡せばいい。
私には、梓葉に会う権利などない……
「かず、君……?」
!!!
帰ろうとドアから手を離した瞬間、後ろから耳に響いた声、
私を【かず君】と呼ぶのはこの世にひとりだけ、
そして何より、
私がこの声を、
梓葉の声を聞き間違えるはずがない。
ゆっくりと後ろを振り返る。
そこに立つ梓葉の姿を見た瞬間、身体が動いた。
「梓葉……!」
気がつくと梓葉を抱きしめていた。
腕に、身体に確かに感じる梓葉の体温に安堵感を感じた。
だけど、それと同時に痩せこけた梓葉の身体に、
梓葉の腕から伸びる点滴の管に、
心臓が冷たくなったのも、
感じた。
「かず君……
かず君……!」
私の名前を呼びながら背中に回した腕に力を入れる梓葉。
だけどその力はあまりにも弱くて儚くて。
それでも必死に私を抱きしめる梓葉が愛しくて愛しくて、
私はただ梓葉を抱きしめた。
少し力を入れたら折れてしまいそうな程に痩せて小さく華奢な梓葉に胸が苦しくなるのを感じながら、
梓葉の変わらない温もりを感じられるのが嬉しくて、
梓葉が自分の腕の中にいる確かな暖かさが嬉しくて、
梓葉が、確かに存在しているのが嬉しくて、
ただただ、梓葉を抱きしめた。