愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

それからはただ梓葉と一緒に死ぬためだけに行動した。

会社の事はまだ父親がトップに立ち取り仕切っていたため私がそこまで心配する事はなかった。
後処理も父が上手くやるだろう事は予想出来た。
桐生の人間、その他外部の人間に私が亡くなったのはただの事故だと警察さえも抱きかかえ桐生の名に傷がつかぬ様に。

ただ、妻である詩織と息子の一哉に対しての心残りと罪悪感は消せずにいた。
夫婦としては冷めてしまった関係性とはいえ、詩織は泉谷家のために桐生に嫁ぎ、実に良くやってくれた。
私の対応や桐生の人間が彼女を傷つけた事も一度や二度じゃないだろう、それでも彼女はそれに耐え良き妻でいようと頑張ってくれていた。

一哉もまだ幼い。
優秀なベビーシッターから始まり優秀な家庭教師も付け親の敷いたレールを歩ませているが、我儘を言わず全て言われた通りにこなし、その姿は桐生の人間をも既に認めさせている。
それでもこれから桐生の人間の一部は僻みや妬みから様々なことを影から言ってくるだろう、下心を持って近づく人間もいるだろう、
その時に私は一哉を守ってやる事が出来ない。
詩織も桐生の人間に対してはあまり強く出られないだろう。

ふたりの将来を考えると居た堪れない。

だが、梓葉を二度も見捨てるなんて出来ない。

すまない、詩織。
すまない、一哉。

ふたりが少しでも安心出来る中で、
将来を約束された中で生きていける様に私の全てをふたりに遺せる様に高橋に任せておく。
許してくれなんて口が裂けても言えない。
それでもこれだけは願わせてくれ。
どうか、
どうか、ふたりで幸せに生きてくれ。





「お待たせ、梓葉」

待ち合わせ場所は私達が出会った図書館。
夕陽が差し込みステンドグラスがキラキラと光を放つ。
梓葉はそんな光を背に笑顔で私を見る。

「ううん、私も今来たとこだよ」

昔と同じ会話にふたりで笑う。

そんな梓葉の手を取る。
変わらない暖かい梓葉の手。

さあ、いこうか。
もう二度と離れる事のない、
ふたりだけの世界へ。

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