愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

しばらく友達ごっこを続けてチャンスを待った。
焦らない、
あの女を一哉君に殺させる、
そしたら一哉君も私と同じだ。

一哉君だけ綺麗なままなんて、
そんなの駄目だよ。
だって君は桐生一仁の息子なんだから。

一哉君にはあの女が私の本当の母親だと思わせている。
一哉君があの女に憎しみを持つように仕向けている。 
そのためにいつもより少しあの女を煽っているんだから。

「男に縋らなきゃ生きていけないんだね?」

私のひと言に女は簡単に怒り暴言を吐きながら殴ってくる。
……足りない、痣が出来る位じゃ足りない。
そんなの一哉君はもう見慣れてしまってる。
何か他に、一哉君がもっともっとこの女を殺したい位に憎くて憎くて堪らない何か……。

『柚葉の髪は本当に綺麗ね』

ママの言葉を思い出す。
ママは私の髪を梳いたり結わえるのが好きだった。

ママの優しい手で髪を梳いてもらうのが好きだった。
優しい声で、優しい顔で嬉しそうに私の髪に触れるママが大好きだった。

だから、私は私のこの髪が大切で好き。
ママが好きだと言ってくれた、私の髪。

そんな髪に私はハサミを入れる。

……ごめんね、ママ。

ざっくりと切り落とした髪が床にパラパラと落ちていった。



「俺が殺すよ、あいつを」

……待ってたよ、その言葉。

殴られ頬は腫れ上がり唇は切れ、不揃いに切られた髪を見て、
一哉君は私が待ち望んでいた言葉を言ってくれた。

ねえ、一哉君。
汚れていないその両手、
私と同じ、血で汚そう。

光の下でキラキラと過ごすその居場所から、
暗闇で影のように、
生きようね――。
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