愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

そしてあの日、
女も、一哉君も予想通りの行動をしてくれた。

「パパも死んじゃって醜く老け込んでもう男には誰にも相手にされないんじゃない?」

わざと怒らせた。
いつも以上に皮肉をたっぷりと。

逆上して今にも私を殺しそうな顔でギャーギャーと汚く叫びながらで馬乗りになってくる。

そうだよ、もっと叫びなよ。
そしたら一哉君はきっと飛び込んでくる。

わざわざあんたが帰ってくる時間に合わせて一哉君に家まで送らせたんだから。

予想通り、女の叫び声に家へと入ってきた一哉君はすぐに女を突き飛ばし私を助けてくる。

だけど当然、それだけじゃ女も死なない。
次は一哉君に馬乗りになって叫び出す。

必死に一哉君を助けようとする私にまた恒例の言葉を女は私に投げかける。

「ほんとに……、あんたさえいなけりゃ良かったのに……。柚葉、あんたは悪魔だ!」

そうだよ、私は悪魔だ。
だからもっと言いなよ、
一哉君がキレるように、
もっと、もっと強く、
私が悪魔だって。

「この悪魔!!」

そう、女が強く叫んだ次の瞬間、
一哉君は渾身の力を出し切るかのように女を力一杯突き飛ばした。

ダラリと横たわる女の頭から流れる血に一哉君はその場に力なく座り込む。

「俺、俺……、俺が、殺し、た……」

そう言いながら震える一哉君。

……一哉君、これで私達同じ、だね。

私達は、人殺し。

もう、戻れないよ。

君はもう、光の下を歩けない。

これで一哉君は私のモノだ。

桐生一仁、
あなたの大事な跡取り息子は今地の底に堕ちた。

後は一哉君に罪の意識を更に植え付け、
私に依存させる。

「全部、全部私のせいなの」

そう言った私の頬には涙が流れていた。

何でかな、
泣くつもりなんてなかったのに。

嬉しいはずなのに。 
女が死んで。
一哉君が私と同じところまで堕ちてくれて。  

なのに何で、

こんなに苦しいんだろう。

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