愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

一哉君を帰したら後は私は警察を呼んで悲劇のヒロインになればいい。 

飲み屋で男とよく口論になっているのは周知の事実だ。
痴情のもつれとかで殺された事になるだろう。

念の為一哉君の指紋は消しておこう、
変に私まで疑われても困る。

警察を呼ぼうと電話に手を伸ばしたその時、
女の低く呻く声が微かに聞こえた。

心臓がドクンと大きく音を立てた。
まさかと思いゆっくりと女を見る。

女の身体は相変わらず横たわっているが、
腕が、足が動いている。

生きてる……!
そう分かった瞬間、
私は手元にあった女のスカーフを女の首に回した。

女の喉元から蛙の鳴き声のような呻き声が響き、必死で首に回されたスカーフを取り除こうと凄い力でバタつき出した。

こっちも必死でスカーフを強く強く締め付ける。
死んだと思ったのに生きてるなんて……!


女の腕がダラリと力なく落ち、身体からも力が抜けていっても私は必死でスカーフを締め付けた。

どれ位そうしていたのだろうか、
気づくと女からは生気を全く感じなくなっていた。
身体はピクリとも動かない。

息、していない。
心臓も、動いていない。

……良かった、
今度こそ、死んだ。
やっとやっと、
死んでくれた。

1番憎くて憎くて堪らなかった女、
ママを傷つけ追い出し、苦しめ、
笑った女。

「……は、はは、
……アハハハハっ!」

部屋に私の笑い声だけが響いた。


ママ、
やったよ。
パパもこの女も、
やっと死んでくれた。

後は桐生一仁だ。

復讐はまだ終わらない。

最後の仕上げが残ってる。

何年かかっても、
桐生一仁と一哉君に、

絶望を味わせるんだ。

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