愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る
⑧
そう、もう少しで私の復讐は幕を閉じる。
ママ、最後の仕上げだよ。
桐生一仁も、一哉君も、
もっともっと深い闇に堕ちてもらうから。
「……川西さんとはまだ子どもの頃に一度会った事があったんだ。
俺は覚えていなかったけど、川西さんはずっと覚えてくれていた」
「その時に、自由にしてあげるとかって約束をしたの?」
「……うん、俺はその事さえも忘れていたのに、
川西さんは約束を果たそうと……」
その約束を果たすために、
私を一哉君から引き離すつもりだったんだろう。
川西さんはいつも正しかった。
真っ直ぐにいつも前を見て、
真っ直ぐに人と接して、
自分というものを持っていた。
だから、怖かった
だって、川西さんは私と正反対だ。
私は復讐のためだけに生きてるのに、
人殺しの悪魔なのに、
川西さんは、いつだって光の下にいる。
それはまるで、
私と出会う前の一哉君のようで。
いつか、
川西さんが一哉君を本当の場所に連れていってしまいそうで、
怖くてたまらなかった。
……ねぇ、一哉君。
私、本当は知ってるの。
ママはパパとあの女に追い出されて、傷つけられて、苦しめられた。
だけどね、
ママを1番追い詰めたのは、
私、なんだよ。
私、言っちゃったんだ、
はじめてあの女を見た時に、
綺麗、って。
あのひと言が、
どれだけママを追い詰めたか、
傷つけたか、苦しめたか。
だから、
私はママの代わりにママを苦しめた奴等、
みんなみんな、殺すの。
だから、
だからね、
それは、
私も、なんだよーー。
「一哉君は、自由になりたい?
人殺しの罪も忘れて、川西さんと一緒に自由に」
私の言葉に驚いた顔をして、
だけど次の瞬間には柔らかく笑って
はっきりと一哉君は言った。
「まさか。
俺が人殺しなのは変わらないよ。
それに、柚葉は俺の天使だ。
俺は柚葉を守れたらそれでいい。
だから、川西さんが与えてくれる自由はいらない」
……ああ、変わらない。
昔から言ってたね。
柚葉は俺の天使だって。
私は悪魔なのに。
あの女だっていつも私を悪魔だと言っていた。
私だってそう思う。
ママを傷つけて追い込んで、
パパを殺して、
あの女を殺した。
そして、
一哉君を巻き込んだ。
一哉君を光の下から暗闇に引きずり込んだ。
一哉君に人殺しだと思い込ませた。
一哉君を私に依存させた。
それなのに、
一哉君はいつも言ってくれた、
柚葉は俺の天使だって、
何度も、何度も。
こんな真っ黒に汚れて醜い、
悪魔の私を。
……ああ、本当に、
せっかく決めてたのに。
決意が鈍る。
このまま、
一哉君の手を引いて一緒に逃げたくなる。
だけど、
私は人殺しだから。
悪魔だから。
そして、
ママを追い詰めたから。
こんな私が、これ以上一哉君と一緒にいちゃいけない。
私は幸せになっちゃいけない。
私は、
復讐を果たさなきゃいけない。
日が沈み薄暗くなる中、
1台の車が急ブレーキをかけて止まる。
「一哉!!」
「父さん!?」
車から降りてきたのは桐生一仁。
驚きと戸惑いから立ち尽くす一哉君。
……予定外だけど、桐生一仁が来たのも、
運命だ。
復讐を果たし、贖罪を果たす、運命。
一哉君の視線が桐生一仁に向いているその隙に、私はガードレールを跨いだ。
「柚葉!!」
青ざめた顔をした一哉君と桐生一仁が目に写る。
そうだよ、桐生一仁。
これは、あの時の再現。
ママが目の前で飛び降りた、
あの時の。
あの日からあなたはずっと後悔に苛まれているでしょう?
ずっとずっと、ママが離れないでしょう?
だから、私も同じ物を一哉君に植え付ける。
これで一哉君はずっと私を忘れられない。
あなたと同じ、自分が死なせてしまった、
自分が殺したって、
ずっとずっと、罪の意識に苛まれる。
あなたのせいで、
一哉君は一生罪を背負う。
ママは桐生一仁の事を本当に愛していたからひとりで飛び降りた。
私は、
復讐のために、
ひとりで飛び降りるの。
呪いの言葉を吐きながら。
……ねぇ、一哉君。
私達、違う出会い方をしていたら、
何か変わっていたのかな?
普通の同級生として出会っていたら、
今頃普通の恋人になれていた?
……今更だ、
全て、今更。
復讐のためだけに近づいたのに。
一哉君を利用して桐生一仁に復讐したいだけだったのに。
それだけだった、はずなのに。
一哉君と過ごす時間は、
暖かかった。
嬉しかった、幸せだった。
だけど、
私はママを追い詰めた、傷つけた、苦しめた。
そんな私が幸せになっていいはずがない。
だから蓋をした。
暖かさも、嬉しさも、幸せも、
何も気づかないように、
一哉君への想いに、
蓋をした。
……ああ、本当に、今更だ。
だけど今、この瞬間、
気持ちが溢れて止まらない。
ねぇ、ママ。
ママは桐生一仁が好きで好きで、
だから最期に愛を伝えたんだよね。
だけど、私は最期に呪いを伝えるの。
だから、
この言葉を笑顔で最期に伝える。
聞いてね、一哉君。
これは私の最初で最後の愛で、
呪いの言葉。
「大好きよ、一哉君」
笑顔でそう言って飛び降りた。
これが、私の復讐。
私が私を殺す事が、
ママへの罪滅ぼしで、
ママを殺した奴等への、最後の、復讐。
さようなら、一哉君。
本当に、
大嫌いで
本当は、
大好き、だよーー。
ママ、最後の仕上げだよ。
桐生一仁も、一哉君も、
もっともっと深い闇に堕ちてもらうから。
「……川西さんとはまだ子どもの頃に一度会った事があったんだ。
俺は覚えていなかったけど、川西さんはずっと覚えてくれていた」
「その時に、自由にしてあげるとかって約束をしたの?」
「……うん、俺はその事さえも忘れていたのに、
川西さんは約束を果たそうと……」
その約束を果たすために、
私を一哉君から引き離すつもりだったんだろう。
川西さんはいつも正しかった。
真っ直ぐにいつも前を見て、
真っ直ぐに人と接して、
自分というものを持っていた。
だから、怖かった
だって、川西さんは私と正反対だ。
私は復讐のためだけに生きてるのに、
人殺しの悪魔なのに、
川西さんは、いつだって光の下にいる。
それはまるで、
私と出会う前の一哉君のようで。
いつか、
川西さんが一哉君を本当の場所に連れていってしまいそうで、
怖くてたまらなかった。
……ねぇ、一哉君。
私、本当は知ってるの。
ママはパパとあの女に追い出されて、傷つけられて、苦しめられた。
だけどね、
ママを1番追い詰めたのは、
私、なんだよ。
私、言っちゃったんだ、
はじめてあの女を見た時に、
綺麗、って。
あのひと言が、
どれだけママを追い詰めたか、
傷つけたか、苦しめたか。
だから、
私はママの代わりにママを苦しめた奴等、
みんなみんな、殺すの。
だから、
だからね、
それは、
私も、なんだよーー。
「一哉君は、自由になりたい?
人殺しの罪も忘れて、川西さんと一緒に自由に」
私の言葉に驚いた顔をして、
だけど次の瞬間には柔らかく笑って
はっきりと一哉君は言った。
「まさか。
俺が人殺しなのは変わらないよ。
それに、柚葉は俺の天使だ。
俺は柚葉を守れたらそれでいい。
だから、川西さんが与えてくれる自由はいらない」
……ああ、変わらない。
昔から言ってたね。
柚葉は俺の天使だって。
私は悪魔なのに。
あの女だっていつも私を悪魔だと言っていた。
私だってそう思う。
ママを傷つけて追い込んで、
パパを殺して、
あの女を殺した。
そして、
一哉君を巻き込んだ。
一哉君を光の下から暗闇に引きずり込んだ。
一哉君に人殺しだと思い込ませた。
一哉君を私に依存させた。
それなのに、
一哉君はいつも言ってくれた、
柚葉は俺の天使だって、
何度も、何度も。
こんな真っ黒に汚れて醜い、
悪魔の私を。
……ああ、本当に、
せっかく決めてたのに。
決意が鈍る。
このまま、
一哉君の手を引いて一緒に逃げたくなる。
だけど、
私は人殺しだから。
悪魔だから。
そして、
ママを追い詰めたから。
こんな私が、これ以上一哉君と一緒にいちゃいけない。
私は幸せになっちゃいけない。
私は、
復讐を果たさなきゃいけない。
日が沈み薄暗くなる中、
1台の車が急ブレーキをかけて止まる。
「一哉!!」
「父さん!?」
車から降りてきたのは桐生一仁。
驚きと戸惑いから立ち尽くす一哉君。
……予定外だけど、桐生一仁が来たのも、
運命だ。
復讐を果たし、贖罪を果たす、運命。
一哉君の視線が桐生一仁に向いているその隙に、私はガードレールを跨いだ。
「柚葉!!」
青ざめた顔をした一哉君と桐生一仁が目に写る。
そうだよ、桐生一仁。
これは、あの時の再現。
ママが目の前で飛び降りた、
あの時の。
あの日からあなたはずっと後悔に苛まれているでしょう?
ずっとずっと、ママが離れないでしょう?
だから、私も同じ物を一哉君に植え付ける。
これで一哉君はずっと私を忘れられない。
あなたと同じ、自分が死なせてしまった、
自分が殺したって、
ずっとずっと、罪の意識に苛まれる。
あなたのせいで、
一哉君は一生罪を背負う。
ママは桐生一仁の事を本当に愛していたからひとりで飛び降りた。
私は、
復讐のために、
ひとりで飛び降りるの。
呪いの言葉を吐きながら。
……ねぇ、一哉君。
私達、違う出会い方をしていたら、
何か変わっていたのかな?
普通の同級生として出会っていたら、
今頃普通の恋人になれていた?
……今更だ、
全て、今更。
復讐のためだけに近づいたのに。
一哉君を利用して桐生一仁に復讐したいだけだったのに。
それだけだった、はずなのに。
一哉君と過ごす時間は、
暖かかった。
嬉しかった、幸せだった。
だけど、
私はママを追い詰めた、傷つけた、苦しめた。
そんな私が幸せになっていいはずがない。
だから蓋をした。
暖かさも、嬉しさも、幸せも、
何も気づかないように、
一哉君への想いに、
蓋をした。
……ああ、本当に、今更だ。
だけど今、この瞬間、
気持ちが溢れて止まらない。
ねぇ、ママ。
ママは桐生一仁が好きで好きで、
だから最期に愛を伝えたんだよね。
だけど、私は最期に呪いを伝えるの。
だから、
この言葉を笑顔で最期に伝える。
聞いてね、一哉君。
これは私の最初で最後の愛で、
呪いの言葉。
「大好きよ、一哉君」
笑顔でそう言って飛び降りた。
これが、私の復讐。
私が私を殺す事が、
ママへの罪滅ぼしで、
ママを殺した奴等への、最後の、復讐。
さようなら、一哉君。
本当に、
大嫌いで
本当は、
大好き、だよーー。