愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

もうこれ以上、
知ってはいけない、知りたくない、
聞いてはいけない、聞きたくない、
そう思う俺の気持ちなんてお構いなしに峰島さんは話を続けていく。

「二宮梓葉の仕組んだ出会いによって、桐生一仁はすぐに二宮梓葉に心を許し、そして取り込まれた。
君が冬野柚葉に取り込まれたように。
その後、2人は中学3年の時に正式につきあいだした。
それも全て、二宮梓葉の策略だ」

「……何で、峰島さんがそんな事まで分かるんですか?」

「見たからだよ、
二宮梓葉が笑いながら桐生一仁の写真をハサミで切り裂いているところをね」

「え……?」

父さんの写真を、
切り裂く……?
梓葉さんが?

何で、
何のために……。

「ちょうどクラス内で、二宮梓葉には他校の彼氏がいる、
しかもその彼氏は名門校に通うお金持ちのイケメンだ、なんて噂されていた。
あれだけ美人で明るく目立つ彼女だ、それ位の彼氏がいても当たり前だろう、なんて私は思っていた。
そんな時、放課後焼却炉の前にいる二宮梓葉を見かけた。
掃除当番だった私は彼女のいる焼却炉に用事があり声をかけようと近づいた。
彼女は手元に何かを持っていた。
それをハサミでひたすらに切り刻んでていた。
何を切っているんだろう?
そう単純に不思議に思って彼女の手元を見た。
それは、写真だった。
同学年だろうと思われる、ひとりの男の子の写真を、
彼女はひたすらに切り刻み燃やしていた。
それも笑顔で。
その笑顔があまりにも普段の彼女とかけ離れた、なんとも言えない程に暗く、底の見えない恐ろしい笑顔で、
私は思わず小さく声を上げてしまった。
その声で私に気づいた彼女は、慌てる様子もなく笑顔も崩さず振り向いた。
そんな彼女に私は言った、
何をしているの、と。
彼女は言った、
消してるの、
切り裂いて、燃やして、消すんだよ、と。
意味が分からず、私はまた聞いた、
何で、そんな事をするの、と。
彼女は笑顔のまま、言った、
この子はね、何も知らない、幸せな子なの、
悪魔の子なのに。
だからね、私が消してあげるの。
幸せも、全部、ずっとずっと」

背中に冷たい汗が流れた。
息がしづらい。
そんな俺に峰島さんは淡々と話を続ける。

「意味が分からなかったが、彼女は全ての写真を切り刻み燃やすと笑顔でその場から離れていった。
次の日、彼女に会うのが怖かった私とは対照的に、彼女は笑顔で私に挨拶してきた。
その笑顔はいつもの彼女の明るい笑顔だったが、
私はその笑顔さえも薄ら寒く感じ、そして恐ろしかった。
後日、たまたま下校中彼女が男の子と歩いているのを見かけて驚いた、
彼女と仲よさげに手を繋ぎ歩いているその男の子は、
彼女が切り刻み、燃やしていた写真の男の子だった。
きっとあの男の子が噂の彼氏なんだろう事は分かった。
だけど、何故彼氏の事を彼女は悪魔の子、なんて言ったのか、
消してあげる、なんて言ったのか、
それが分かったのは、つい最近だ。
川西さんの事件で君のまわりを調べている時に、君の彼女として冬野柚葉が上がった。
最初は綺麗な女の子だとしか思わなかった。
二宮梓葉と過ごした時間はもう20年以上も前の事で、その時には私も彼女の事は記憶の片隅にしかなかったからね。
だけど、彼女を調べて辿り着いた、
二宮梓葉の存在に。
そして一気に思い出した、彼女の事を
彼女の異常な行動も。
だから調べた、彼女のあの時の行動と言葉の意味を。
そして全てを知った、
彼女は桐生一仁の父への憎しみから、そのひとり息子である桐生一仁を利用して桐生一族に復讐を誓った」

「……でも、父さんと梓葉さんは高校生の時に別れているんですよ?
その後お互い別の人と結婚し子どもも生まれた。
柚葉が生まれた時点で、梓葉さんは復讐なんてもう考えてなかったんじゃないですか?
だって梓葉さんは死ぬ間際まで柚葉の事を心配していたんですよ?
自分が精神的に辛い時でさえも柚葉の事を考えて……。
そんな人が復讐なんて……」

「二宮梓葉は病気だった」

「……知ってますよ、
傷つけられて苦しめられて、心が限界だったんでしょう?」

「違う、
彼女は腎臓を患っていた」

「え……?」

「彼女は自分がもう長くない事が分かっていた。
だから、桐生一族への復讐を娘である冬野柚葉に託したんだ」

……もう、
何も考えたくない程に、
俺の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

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