愛を知らない僕たちは、殺す事で愛を知る

「もう分かったはずだ、
君は桐生一族への復讐のために、冬野柚葉に利用されたんだ。
……もう、十分だろう?
本当の事を話してくれないか?
君は、誰も殺していない、
冬野柚葉の継母は、冬野柚葉が殺した。
冬野柚葉は、ひとりで飛び降りた。
それが、真実だ」

先程までの淡々とした口調から一転、
悲しみを含むかのような声色と表情で、
峰島さんはそう俺にゆっくりと問いかけた。

「これで、全て終わらせよう。
憎しみも復讐も、苦しみも全て終わりだ。
君は、これから未来を生きるんだ」

……全て終わらせる、
そこは賛成だ。
復讐は、これで終わりだ。

俺で、終わり。

「……何度も言っているでしょう?
柚葉の継母も、柚葉も、
殺したのは、
俺です」

俺の言葉に、峰島さんは目を見開き、
そして、
先程よりも深く悲しみを露わにした目で、顔で、
俺を見る。

「……君は、やってもいない罪を被ると言うのか?
殺人という、もっとも重い罪を、
君は一生背負うと言うのか?」

「俺の罪です。
俺が背負うのは当たり前です。
柚葉は何もしていない、
被害者だ。
両親は亡くなり、継母は俺に殺され、
挙げ句自分も殺された、
可哀想な被害者、
それが柚葉です」

そう、それが真実でいい。
本当の事なんて、今更誰にも分からない。

梓葉さんが桐生の人間を憎み、恨んでいたのは本当だろう。
だけど、父さんの事を死ぬその瞬間まで憎んでいたのか、
もしかしたら、父さんと過ごす時間に少し、
ほんの少しでも愛があったかも知れない、
そう、憎しみも愛も、
どれが本当かなんて、
梓葉さんにしか分からないんだ。

それは柚葉も同じだ。

俺に近づいたのは父さんに対する復讐からだろう。
だけど、共に過ごしたこの短くも長い時間、
柚葉は俺達桐生の人間に対する憎しみだけを感じ、復讐だけを考えていたのだろうか、
もしかしたら、
……勝手な希望、願望かも知れないけど、
柚葉だって、俺と同じ気持ちを持ってくれていた時間も、
あったかも知れないんだ。

だから、これでいい。

俺は柚葉の継母を殺し、
柚葉も殺した。

これで、
柚葉の、
梓葉さんの復讐は果たせた。

これで、
復讐は終わりだ。

そう、
これでいい。

これが1番、
いいんだ。

そうだよね、柚葉。

「冬野柚葉を殺したのは、
俺です」
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