極上の男を買いました~初対面から育む溺愛の味~
 そうでなければ親に紹介した帰りの今、疲れたからと立ち寄ったカフェで「騙しやがったな」なんて言われるはずがないのだから。



「だ、騙したって、私が? 亮介を?」
「そうだよ、なーにが社長令嬢だ。どんな豪邸なのかと思ったら普通の一戸建てだし、聞けば従業員十人のただの町工場じゃねぇか」

 今まで付き合っていた穏やかで優しい大人な彼のイメージがガラガラと崩れ、もうすぐ初夏だというのに寒気すらする。

“町工場……なのは間違いないけど”

「というか、そもそも私は自分から社長令嬢とか言ってないんだけど?」
「どーせ自分をよく見せたくて裏で噂とか流してたんだろ」
「なっ!」

 その言い草に一気に頭へ血がのぼる。
 確かにそんな噂があったことは知っていたが、規模は小さいものの父が町工場の経営をしており従業員も雇っている。

 社長令嬢なんて大袈裟だとは理解していたが、だからと言っていちいち規模を説明して回るなんて面倒なことをするのはあまりにも非効率的だ。

 騙しているつもりはなく、そもそも嘘とも言い切れない。

 だが、その結果がまさかこれだとは想定外だった。

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