極上の男を買いました~初対面から育む溺愛の味~
「いや、あり得ないでしょ……」

 思わずそう呟くのも仕方ない。

“グリーン車ってそんなに頻繁に乗るものだった?”

 私の記憶が正しければ決してそんなはずはないのだが。
 困惑している私の手をグイグイと引き、慣れた足取りで着いたのはもちろん京都大学。
 リベンジである。

「この時間は研究室にいると思うんだよねっ」

 準備も何も整っていないのに旅行なんて、と文句を言いたい気持ちもあったのだが、この楽しそうな声色を聞くとそんな気があっさり失せてしまった。

“まぁ、光希の言う通り今日はお泊まりの予定だったから着替えもメイク道具も持ってるし”

 それにここは同じ日本国内だ。
 何か足りなくてもすぐにどうとでもなるだろう。

 なら、楽しまなくては損である。
 そう私が開き直った時だった。 

「……ちょっと強引すぎた?」

 ふと光希が突然足を止めて振り返り、少し眉を下げてそう聞いてくる。
 まるで叱られる前の子犬みたいなそんな彼が可愛く、私はつい吹き出した。

「そんなところも嫌いじゃないって思ってたとこ!」
「ほんと? 良かった。俺も大好き」

 ふわりと笑った光希にさっきよりも強く手を握られ、思わずドキリとしてしまう。

“嫌いじゃない、に『好き』を返してくるんだから”

 しかも『俺も』と来たもんだ。
 だがそれが事実なだけに少し悔しく、またいまだに彼のこういうところには慣れずうっかり胸が高鳴ってしまう。

 相変わらず身も心も振り回されてばかり。
 けれどそんなことさえも胸の奥がじわりと熱く、そしてなんだかくすぐったいと感じたのだった。
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