キス魔な副社長は、今日も秘書の唇を貪る。~キスで力を発揮するハイスペ副社長に掴まりました~

副社長秘書



「ただいま戻りました」
「藤堂さん、遅かったね」
「すみません」


副社長室に戻り部屋に入ると、副社長は少し心配そうな表情を浮かべていた。



先程の緋山さんの言葉が気になって、心がモヤモヤする。

けれど、この話は副社長には話さなくて良いこと。
気付かれないように、いつも通り振る舞う。



「副社長、夕方からの会合ですが、冨田専務が急遽参加できなくなったそうです。代理として原川常務がご出席されます」
「分かった、ありがとう」


そう言いながら私に近付いてくる副社長。


「……」


そっと顎を掴み、優しくキスをした。


「…茉佑を、補給」


熱く蕩けそうなキスに足が震え始める。
副社長は私の腰を支えながら、何度も何度もキスをした。


「甘くて、美味しくて、気持ち良い…。茉佑、好き」
「副社長…私も好きです」


その言葉に副社長の動きは更に強くなる。
舌が絡む度に水音が響いて心拍数が更に上がって来た時…。



 ガタッ!!




「!?」


扉の外から大きな音がして、反射的に私と副社長は離れる。



「…誰だ!」



大声でそう問うと、また外から物音が聞こえた。

副社長は大股で扉に近付き、勢いよく開ける。
部屋の前には、まるで腰を抜かしたかのような緋山さんが座り込んでいた。



「…緋山くんか」
「ふ、副社長……」



緋山さん……。

受付に用事があるって言ってなかったっけ?
あの後すぐに追い掛けて来たってこと?


緋山さんの手には小さな機械が握られている。
それを見た副社長は、呟くように声を出した。



「…それ、盗聴器」
「………」
「『俺の城』の前でそれを持って、何してんの?」
「………」


唇を噛み、険しい表情の緋山さんはゆっくりと立ち上がり、副社長のネクタイを引っ張った。


「………緋山くん。君、本当に良い度胸しているよね」
「…副社長だか何だか知りませんけど、僕はずっと昔から藤堂さんのことが好きだったんだ! 途中で急に現れた男に取られてたまるかよ!!」
「………」


副社長は緋山さんの腕を掴み、酷く振り払う。
そして凄く冷たい目をして、逆に緋山さんのネクタイを引っ張り返した。


「昔から好きだったとかそんなこと知らないけど、急に現れて勝手なことしないでくれる? 今は俺のだから」
「……っ!!」


ネクタイから手を離し、勢いよく緋山さんの体を押した。


「……藤堂さん。俺、前職の時に藤堂さんと面識がありました。前の会社で総務部に居た時、商品の営業でやってきた藤堂さんとは、何度もお話をさせてもらいました」

「その時から、貴女のことが気になっていて…。ある日、ここの求人が出ていることを知ったんです。…藤堂さんと同じ職場で働きたいと思って…転職してきた次第です」



唐突に始まった、過去の話。



……営業なんて、莫大な数の会社に赴いた。

うちと契約をして下さった会社様とは、その後のやり取りがあるから記憶があるけれど…。緋山さんについては全く覚えがない。

おそらく、営業をしに行っただけで…契約はしていないんじゃないかな。



「……緋山さん。申し訳ありませんが、全く覚えていません」
「…だよね、そうですよね……」



そう呟きながらフラフラっと、副社長室を出ようとする。
そんな緋山さんを副社長は呼び止めた。



「待て。君はその盗聴器をどうするつもりだったのか、説明しなさい」
「…………盗聴しかないですよ。これを廊下に設置して2人の会話を聞いて、邪魔をしようと思っていただけです」
「緋山くん……覚悟しときなさい」
「……」



副社長の言葉に返事もせず、緋山さんは部屋から出て行った。



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