【書籍化決定】推しの育て方を間違えたようです~第三王子に溺愛されるのはモブ令嬢!?~

 彼の周りには従者が一人いるだけで、他の訪問を許さないのだ。ミレイナと結婚したところで、セドリックとの繋がりが持てるとは到底思えないが。
 彼らにとってはミレイナが一縷の望みだと思っている節はある。

 それでなければ、ミレイナに近づく理由がわからないのだ。

「ミレイナ嬢、よろしければ、一曲いかがですか?」
「ごめんなさい。まだこちらに到着したばかりで疲れてしまっているの」
「ミレイナ嬢は身体が弱いですから、無理はいけませんね」

 白い歯を見せて笑ったアンドリューに、ミレイナはぎこちなく笑みを返した。なんでも知っているという雰囲気を出されると、あまり気分のいいものではない。
 ただ、少し引きこもりで体力がないだけだというのに。

 アンドリューは笑みを浮かべたまま、ミレイナの前から離れなかった。

「わたくしにはかわまず、他の方をお誘いください」
「せっかくですから。少し話しましょう。前回はゆっくりお話しできませんでしたから」

 彼はサッと給仕からシャンパンを二つ受け取ると、一つをミレイナに手渡すのだ。
 ダンスを断ったくらいで引くつもりはないらしい。

 アンドリューは自分の経歴がいかに素晴らしいかをミレイナに語って聞かせた。その大半を聞き流していたので、何がすごいのかはわからない。

 ミレイナはオーケストラに合わせて踊るみんなの姿を見ながら、相槌を打っているだけだった。

 ふわりと花が香る。ミレイナはその香りの正体を探して、あたりを見回す。

「あら……?」
「どうかしましたか?」
「花の香りがしませんか?」
「この城は花畑に囲まれてますから」
「そうですわね」

 確かに花畑に囲まれている。花の香りがするのは普通のことだ。

(なんの花の香りだったかしら?)

 記憶にある花だ。けれど、どこでかいだ匂いかまでは思い出せなかった。
 屋敷の庭園だっただろうか。
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