【書籍化決定】推しの育て方を間違えたようです~第三王子に溺愛されるのはモブ令嬢!?~
言いたいことの一つも言えやしない。
セドリックはいつも面倒そうにしていても、ミレイナが言い終えるまでは待っていてくれた。
返事は「ふーん」や「へぇ」と言った簡素なものが多かったが、ミレイナの言った言葉は一語一句覚えていてくれたのだ。
(彼らと殿下を比べるのは酷よね)
ミレイナの推しは少しツンケンしたところはあるが、とても紳士的なのだ。
誰の手も取らず、眉尻を下げる。
「顔ぶれが王都と変わらないのでは、新鮮味はまったくありませんわね。美しい城も景色も堪能しましたので、わたくしは帰ります」
ミレイナは淑女の礼をすると、護衛騎士の手を取る。そして、男たちに背を向けた。
「ね! 姉さんっ! 待って……!」
出口に向かうミレイナを追いかけて来たのは、ビルだった。慌てた様子でミレイナの腕を掴む。
「せっかくだしさ、もう少し……」
「ビル、歓迎会ではないのなら、そう言ってちょうだい」
強い口調で言うミレイナに、ビルはたじろいだ。しかし、すぐいつもの笑顔を浮かべる。
「ほら、姉さん婚活するっていうから手伝おうかと思って。王都だと殿下がいてなかなかうまくいかなかっただろ?」
「そんなことお願いしていないわ」
ミレイナはただ、夜会でエスコートをお願いしただけだ。
「それは悪いことをしたかもしれないけどさ、こんなところまでみんなを呼んで、数分で終わりなんて言えないよ! 一時間だけでいいんだ!」
ビルはミレイナの腕を強く掴んだ。護衛騎士が引き剥がさなかったら、痛みで叫ぶところだっただろう。
「姉さ――……」
ビルが言い終える前に、ミレイナはビルの頬を思いっきりひっぱたいた。
パンッと痛々しい音が古城に響く。